息吹が目を覚ました時、枕元には晴明が座っていた。
部屋の四隅には先程とは違う香りのする壺が置かれていて、むくりと起き上がった息吹は強烈な倦怠感に重たい息をついた。
「父様…身体が重たい…」
「寝ていなさい。数日は気だるさが抜けぬかもしれぬが、良くなる。先ほどは萌と相模がそなたを案じて見舞いに来ていたよ」
「そんな…萌さんの身体の方がよっぽど心配なのに…」
「私はそなたの方が心配なのだ。息吹…空海が夢に現れる度に体調を崩していたね?怒らないから言ってごらん」
手渡された薬湯はとても苦く、顔をしかめながら飲み干してまた床についた息吹は唇をきゅっと引き結んで頷いた。
「そうかなって思ってたけど…やっぱりそうなの…?」
「何かしらの術を施されたようなのだが、まだそれが何だかは解明できていない。明朝空海に直接問い質してみるから、それまでは安静に。父様からのお願いだよ」
「はい。心配かけてごめんなさい」
横になったままきょろりと部屋を見渡した息吹に気付いた晴明は、主さまが残して行ったものを懐から取り出して息吹の手に握らせた。
「十六夜は百鬼夜行に出た。後ろ髪引かれる思いでぎりぎりまで残っていたが、十六夜には十六夜の務めがある。息吹、これを」
「これ…主さまの髪紐…」
見覚えのある濃紫の雅な髪紐からは主さまの香りがして思いきり吸い込むと、晴明は笑みを浮かべて息吹の頭を撫でた。
「百鬼もそなたを案じていた。“息吹は今日も来ないのか”と詰られて大変だったよ。ふふ、そなたはあ奴らの姫でもあるのだから、十六夜と夫婦になると知れたら大騒ぎになるだろうな」
「みんな…。母様や雪ちゃんも心配してるよね…。体調が良くなったら幽玄町に行ってもいい?」
「いいとも。そのためには力いっぱい眠って、力いっぱい滋養のあるものを食べなさい。家のことは心配しなくていい。式神がやってくれるからね」
――息吹は髪につけていた桃色の髪紐を外し、それを晴明に手渡した。
「これを主さまに。主さまは本当は寝るのが大好きな人なんだから無理して会いに来なくてもいいよ、って伝えて下さい。…本当は会いたいけど、いいの」
「わかった。これは責任を持って私が渡して来よう」
…きっと何を言っても会いに来るだろうけれど。
部屋の四隅には先程とは違う香りのする壺が置かれていて、むくりと起き上がった息吹は強烈な倦怠感に重たい息をついた。
「父様…身体が重たい…」
「寝ていなさい。数日は気だるさが抜けぬかもしれぬが、良くなる。先ほどは萌と相模がそなたを案じて見舞いに来ていたよ」
「そんな…萌さんの身体の方がよっぽど心配なのに…」
「私はそなたの方が心配なのだ。息吹…空海が夢に現れる度に体調を崩していたね?怒らないから言ってごらん」
手渡された薬湯はとても苦く、顔をしかめながら飲み干してまた床についた息吹は唇をきゅっと引き結んで頷いた。
「そうかなって思ってたけど…やっぱりそうなの…?」
「何かしらの術を施されたようなのだが、まだそれが何だかは解明できていない。明朝空海に直接問い質してみるから、それまでは安静に。父様からのお願いだよ」
「はい。心配かけてごめんなさい」
横になったままきょろりと部屋を見渡した息吹に気付いた晴明は、主さまが残して行ったものを懐から取り出して息吹の手に握らせた。
「十六夜は百鬼夜行に出た。後ろ髪引かれる思いでぎりぎりまで残っていたが、十六夜には十六夜の務めがある。息吹、これを」
「これ…主さまの髪紐…」
見覚えのある濃紫の雅な髪紐からは主さまの香りがして思いきり吸い込むと、晴明は笑みを浮かべて息吹の頭を撫でた。
「百鬼もそなたを案じていた。“息吹は今日も来ないのか”と詰られて大変だったよ。ふふ、そなたはあ奴らの姫でもあるのだから、十六夜と夫婦になると知れたら大騒ぎになるだろうな」
「みんな…。母様や雪ちゃんも心配してるよね…。体調が良くなったら幽玄町に行ってもいい?」
「いいとも。そのためには力いっぱい眠って、力いっぱい滋養のあるものを食べなさい。家のことは心配しなくていい。式神がやってくれるからね」
――息吹は髪につけていた桃色の髪紐を外し、それを晴明に手渡した。
「これを主さまに。主さまは本当は寝るのが大好きな人なんだから無理して会いに来なくてもいいよ、って伝えて下さい。…本当は会いたいけど、いいの」
「わかった。これは責任を持って私が渡して来よう」
…きっと何を言っても会いに来るだろうけれど。

