道長は、朝廷に居る間ずっと空海を見張っていた。
何かと言っては護摩を焚いて念仏を唱えている。
今も部屋の端からずっと後ろ姿を監視していたのだが…
「うぅっ!」
「!?空海殿!?」
突然上体が前に倒れ込んで胸を押さえて苦しみ始めた空海に驚いた道長が駆け寄ると、空海の顔は真っ青になり、絶えず冷や汗が噴き出していた。
腕に触れると燃えるように熱く、思わず手を離した道長は襖を開けて大声で助けを求めた。
「誰か!薬師を!」
「道長、殿…大事…ありませぬ…」
息も絶え絶えというようにぜいぜいと喘ぎながらも空海が道長を止めて咳き込み、なんとか笑みを作って安心させようとしたが、道長は空海の燃えるような身体を軽々と抱き上げて隣室に寝かしつけた。
「何があった?」
「晴明殿は…すごい…方だ…」
…術士同士、何かしらの対決をしていたのはわかっていたが…道長は晴明がいかに有能で力のある陰陽師であるかを重々知っている。
普段は飄々としているが、一条朝から母狐を取り戻すために長年恨みを抱きながら復讐計画を練っていたことも知っていたし、今は愛娘の息吹のために空海をやり込めようとしているのも知ってはいたが…
「空海殿…晴明とやり合うのは止した方がいい。何をされたかはわからぬが、命まで落としかねぬことに…」
「……道長殿も晴明殿も…何もご存知ないようだ。あれは……うぅっ」
また胸を抑えて苦しみ始めた時薬師が到着したので、道長は席を外して言われた意味を考えた。
「なんだあの言い草は…。くそ、もやもやする」
――息吹に会いたいが、所詮振られた身だ。
直接言われていないにしろ、あんな光景を見せつけられたからには大人しく引き下がるのが男というもの。
だが…息吹の夫となる男は…妖だ。
それもこの国の妖を束ねる大妖。
「息吹…そなたはそれで幸せになれるのか?」
朝廷を出て牛車に乗り込みながら息吹のことを考えた。
晴明が唯一傍に置いて可愛がっている愛娘は、見違えるほどに綺麗になった。
綺麗になったのは…あの妖と恋に落ちたからなのか?
「俺なら…同じ時を刻んで生きてゆける。俺なら…」
魔が差す。
道長の心にじわじわと、魔が這い寄る。
何かと言っては護摩を焚いて念仏を唱えている。
今も部屋の端からずっと後ろ姿を監視していたのだが…
「うぅっ!」
「!?空海殿!?」
突然上体が前に倒れ込んで胸を押さえて苦しみ始めた空海に驚いた道長が駆け寄ると、空海の顔は真っ青になり、絶えず冷や汗が噴き出していた。
腕に触れると燃えるように熱く、思わず手を離した道長は襖を開けて大声で助けを求めた。
「誰か!薬師を!」
「道長、殿…大事…ありませぬ…」
息も絶え絶えというようにぜいぜいと喘ぎながらも空海が道長を止めて咳き込み、なんとか笑みを作って安心させようとしたが、道長は空海の燃えるような身体を軽々と抱き上げて隣室に寝かしつけた。
「何があった?」
「晴明殿は…すごい…方だ…」
…術士同士、何かしらの対決をしていたのはわかっていたが…道長は晴明がいかに有能で力のある陰陽師であるかを重々知っている。
普段は飄々としているが、一条朝から母狐を取り戻すために長年恨みを抱きながら復讐計画を練っていたことも知っていたし、今は愛娘の息吹のために空海をやり込めようとしているのも知ってはいたが…
「空海殿…晴明とやり合うのは止した方がいい。何をされたかはわからぬが、命まで落としかねぬことに…」
「……道長殿も晴明殿も…何もご存知ないようだ。あれは……うぅっ」
また胸を抑えて苦しみ始めた時薬師が到着したので、道長は席を外して言われた意味を考えた。
「なんだあの言い草は…。くそ、もやもやする」
――息吹に会いたいが、所詮振られた身だ。
直接言われていないにしろ、あんな光景を見せつけられたからには大人しく引き下がるのが男というもの。
だが…息吹の夫となる男は…妖だ。
それもこの国の妖を束ねる大妖。
「息吹…そなたはそれで幸せになれるのか?」
朝廷を出て牛車に乗り込みながら息吹のことを考えた。
晴明が唯一傍に置いて可愛がっている愛娘は、見違えるほどに綺麗になった。
綺麗になったのは…あの妖と恋に落ちたからなのか?
「俺なら…同じ時を刻んで生きてゆける。俺なら…」
魔が差す。
道長の心にじわじわと、魔が這い寄る。

