久々に大がかりな術を行使することになり、部屋の中央に息吹を寝かしつけた晴明は、目を泳がせて緊張している息吹の四隅に香を焚いた壺を置きながら笑いかけた。
「何も緊張することはない。そなたが眠っている間に全てが終わっている」
「でも…父様、空海さんは悪い人なんかじゃ…」
「それは俺たちが判断する。いいから眠っていろ」
主さまにぴしゃりと叱られて瞳を閉じると、独特の甘い匂いがする香に誘われてうとうとし始めた。
晴明は身体を清めて白装束に身を包み、万全の状態で息吹の枕元に座ると印を結んだ。
「俺は行かなくてもいいのか?」
「そなたは現実の世界であれをとっちめてくれ。…この子は純粋すぎる。それ故に鬼八の時のように夢につけ込まれてしまう」
「わかった。所詮お前は親馬鹿だな」
「我が子を愛して何が悪い?御託はいい。参る」
複雑な言葉を組み合わせた文言を唱え始めた。
印も指が攣りそうなほどに複雑なもので、もし何か起きた時のために主さまも気を緩めずに息吹を見つめていると、息吹の唇が少し半開きになった。
――そして晴明は真っ暗な闇の中にぽつんと正座している息吹を見つけた。
「こんな暗闇に…。息吹、父様だよ。ここで何をしている?」
「あ、父様…。そろそろ空海さんが来るはずなの。空海さんが来る時はいつも真っ暗になって…」
「そなたは会わなくていい。さあ、私が道を作ってあげるからそこを歩きなさい。真っ白な道を辿るだけでいいからね」
真横にすう、と指した先に突如白線が現れ、抜群の信頼感を得ている晴明の言葉を鵜呑みにした息吹は晴明に手を振って白線の上に立った。
「父様…ひとりで大丈夫?」
「ああ大丈夫だとも。長い道になるかもしれぬが、私を信じて行きなさい」
「はい」
笑顔を見せた息吹が背を向けて歩き出すと、晴明はすっと笑みを消して前方の暗闇を睨みつけた。
「こそこそ嗅ぎ回られるのは好きではない。ただの生臭坊主ではないな。それに目的は息吹ではなく、白狐の銀だったのでは?」
「これはこれは…拙僧の目論見などお見通しですかな。術はそろそろ完成いたします。もう晴明殿が何をしようとも無駄ですぞ」
「妙な術を私の愛娘に施した罰を受けよ。戻れなくしてあげよう」
晴明の身体から殺気が噴き出した。
「何も緊張することはない。そなたが眠っている間に全てが終わっている」
「でも…父様、空海さんは悪い人なんかじゃ…」
「それは俺たちが判断する。いいから眠っていろ」
主さまにぴしゃりと叱られて瞳を閉じると、独特の甘い匂いがする香に誘われてうとうとし始めた。
晴明は身体を清めて白装束に身を包み、万全の状態で息吹の枕元に座ると印を結んだ。
「俺は行かなくてもいいのか?」
「そなたは現実の世界であれをとっちめてくれ。…この子は純粋すぎる。それ故に鬼八の時のように夢につけ込まれてしまう」
「わかった。所詮お前は親馬鹿だな」
「我が子を愛して何が悪い?御託はいい。参る」
複雑な言葉を組み合わせた文言を唱え始めた。
印も指が攣りそうなほどに複雑なもので、もし何か起きた時のために主さまも気を緩めずに息吹を見つめていると、息吹の唇が少し半開きになった。
――そして晴明は真っ暗な闇の中にぽつんと正座している息吹を見つけた。
「こんな暗闇に…。息吹、父様だよ。ここで何をしている?」
「あ、父様…。そろそろ空海さんが来るはずなの。空海さんが来る時はいつも真っ暗になって…」
「そなたは会わなくていい。さあ、私が道を作ってあげるからそこを歩きなさい。真っ白な道を辿るだけでいいからね」
真横にすう、と指した先に突如白線が現れ、抜群の信頼感を得ている晴明の言葉を鵜呑みにした息吹は晴明に手を振って白線の上に立った。
「父様…ひとりで大丈夫?」
「ああ大丈夫だとも。長い道になるかもしれぬが、私を信じて行きなさい」
「はい」
笑顔を見せた息吹が背を向けて歩き出すと、晴明はすっと笑みを消して前方の暗闇を睨みつけた。
「こそこそ嗅ぎ回られるのは好きではない。ただの生臭坊主ではないな。それに目的は息吹ではなく、白狐の銀だったのでは?」
「これはこれは…拙僧の目論見などお見通しですかな。術はそろそろ完成いたします。もう晴明殿が何をしようとも無駄ですぞ」
「妙な術を私の愛娘に施した罰を受けよ。戻れなくしてあげよう」
晴明の身体から殺気が噴き出した。

