主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

確かな殺気を湛えた主さまに気付いた晴明は、怖がる息吹を背中に庇うと昏い瞳をしている主さまの額を人差し指で強く突いた。


「何をする、そこをどけ」


「ならぬ。平安町では人が奥ゆかしく暮らしているのだ。そなたの殺気は百鬼を呼び寄せもすれば、そのように平常心を失くしてしまっては百鬼らを御することもできぬぞ。平安町と幽玄町の掟を忘れたか」


「…あの坊主が息吹の夢を介して何かを施している。お前はそれでも平気なのか?」


「…やはりそうか。それでそなたは暗かったのだな。息吹…父様にも十六夜に話したことと同じことを話してごらん」


優しくかけられた声に一気に涙腺が緩んだ息吹が無言のまま背中に抱き着くと、晴明の正面に立っていた主さまからは…晴明が自分以上に昏い瞳をしていることに気付いた。


「お前も俺と同じじゃないか」


「違うな、私に百鬼は居らぬ故、やるならば単身で乗り込む。術士同士、術で戦うのも面白い。蘆屋道満と同じ運命を辿らせてやろうか」


…実は怒らせると手がつけられなくなるのは自分ではなく、晴明らしい。


冷静さを取り戻した主さまが肩で息をつくと、晴明の脇の下からちらちらと盗み見して鼻をぐずらせている息吹と目が合った。


「…すまなかった。我を忘れそうになっていた」


「ううん…私こそ…隠し事をしちゃっててごめんなさい…ごめんね主さま」


――それから人払いをして、3人で夢のことを話し合った。

息吹はあれから“額が熱いような気がする”と言い、晴明が額を探ってみたが何の兆候もなく、術をかけられたと息吹は言うが、その痕跡すら見当たらない。


うんうんと唸っていると、2人を悩ませてしまったことに後悔をした息吹はしゅんとなって何度も頭を下げた。


「ごめんなさい、やっぱり言うんじゃなかったかな…」


「いや、今言わなかったら私はものすごく怒っていたぞ。それとも私の怒鳴り声を聴きたいのかな?ん?」


「う、ううん、聴きたくないですっ」


ぶんぶん首を振って否定する息吹を膝に乗せた晴明は、羨ましがって薄目で睨みつけてくる主さまに勝ち誇った笑顔を浮かべつつ何度も背中を撫でてやった。


「後は私たちに任せておきなさい。なに、ちょっと懲らしめてやろう」


…ちょっとどころではなかったのだが。