息吹が怯えている――
何に怯えているかは頑として話してくれないが、あの坊主…空海が現れてから、息吹は少し神経質になった。
あれから数日が経ち、晴明は御子捜しをするふりをしながら屋敷へ戻り、主さまと一緒に息吹の観察をした。
…日がなそわそわしている。
特に目覚めた直後が顕著で、時に起きるとすぐ机に向かって紙に走り書きをしている時もある。
――鬼八が現れた時も、息吹はこうして少しおかしくなった。
「あの坊主が夢に介入している可能性は?」
「無いとは言い切れぬ。ただ息吹の夢に介入するには精神の負担が大きい。度々試みようとしたことはあるが、その点が不安でできずにいる」
「…何のために試みようとしたんだ?」
せっせと縁側の床を磨いている息吹を庭から談笑している風に見えるようにしつつ果てしなくちらちら息吹を見ながら主さまが問うと、晴明は袖を払いながら額を押さえた。
「…あの子が全うな人なのかそうでないのかを確かめるためだ」
「…何か確信でもあるのか?」
「いや、あの子がそれを知りたがっているように見える。最近度々私に“鬼八と鵜目姫と華月にまつわる文献があったら見せてほしい”とねだるようになった。あの子は…己の“起源”を知りたいのだよ」
…主さまは華月の血筋の者。
そして息吹は鵜目姫の血筋の者。
鵜目姫は華月を嫌い、華月は鵜目姫に恋焦がれていたが想い叶わず、元々からあった果てしない憎悪は鵜目姫と恋仲にあった鬼八に向かい、起きた悲劇――
両者共に各々の願いを成就させるために惚れてもいない者と夫婦になり、紡がれた憎悪の螺旋。
本来想ってはならない関係だった主さまと息吹は、鵜目姫たちの昇華により、ようやく役目や運命から解放されたかに見えたが…
「起源など今さら探ってどうする?」
「そなたと夫婦になるまではいいが、問題はその後なのだろう。誰もが老いてゆく姿を見られたくはないもなのだよ。今は花のように美しいが、いずれは老いて醜くなる。女心がそなたにはわからぬようだな」
額の汗を拭ってひと息ついた息吹と目が合った。
にこっと笑いかけてきたが、明るさの裏にそんな悩みがあったとは…思いも寄らなかったことだ。
「…俺はまだ息吹のことをわかっていないんだな」
「女心を勉強しろ」
そして息吹に歩み寄った。
何に怯えているかは頑として話してくれないが、あの坊主…空海が現れてから、息吹は少し神経質になった。
あれから数日が経ち、晴明は御子捜しをするふりをしながら屋敷へ戻り、主さまと一緒に息吹の観察をした。
…日がなそわそわしている。
特に目覚めた直後が顕著で、時に起きるとすぐ机に向かって紙に走り書きをしている時もある。
――鬼八が現れた時も、息吹はこうして少しおかしくなった。
「あの坊主が夢に介入している可能性は?」
「無いとは言い切れぬ。ただ息吹の夢に介入するには精神の負担が大きい。度々試みようとしたことはあるが、その点が不安でできずにいる」
「…何のために試みようとしたんだ?」
せっせと縁側の床を磨いている息吹を庭から談笑している風に見えるようにしつつ果てしなくちらちら息吹を見ながら主さまが問うと、晴明は袖を払いながら額を押さえた。
「…あの子が全うな人なのかそうでないのかを確かめるためだ」
「…何か確信でもあるのか?」
「いや、あの子がそれを知りたがっているように見える。最近度々私に“鬼八と鵜目姫と華月にまつわる文献があったら見せてほしい”とねだるようになった。あの子は…己の“起源”を知りたいのだよ」
…主さまは華月の血筋の者。
そして息吹は鵜目姫の血筋の者。
鵜目姫は華月を嫌い、華月は鵜目姫に恋焦がれていたが想い叶わず、元々からあった果てしない憎悪は鵜目姫と恋仲にあった鬼八に向かい、起きた悲劇――
両者共に各々の願いを成就させるために惚れてもいない者と夫婦になり、紡がれた憎悪の螺旋。
本来想ってはならない関係だった主さまと息吹は、鵜目姫たちの昇華により、ようやく役目や運命から解放されたかに見えたが…
「起源など今さら探ってどうする?」
「そなたと夫婦になるまではいいが、問題はその後なのだろう。誰もが老いてゆく姿を見られたくはないもなのだよ。今は花のように美しいが、いずれは老いて醜くなる。女心がそなたにはわからぬようだな」
額の汗を拭ってひと息ついた息吹と目が合った。
にこっと笑いかけてきたが、明るさの裏にそんな悩みがあったとは…思いも寄らなかったことだ。
「…俺はまだ息吹のことをわかっていないんだな」
「女心を勉強しろ」
そして息吹に歩み寄った。

