空海と別れた晴明は、その頃幽玄町の主さまの屋敷で寛いでいた。
「ああ疲れた。あの男と居ると身も心もくたくたになってしまう」
「…なあ晴明、息吹は大丈夫なんだよな?」
冷たいお茶を運んできてくれた雪男がさも心配げに小さな声で問うてきたので顔を上げると…
雪男の顔を何か不吉なものがよぎった気がして、晴明は指で目を擦った。
「晴明?」
「いや、なんでもない。息吹は大事ない。私と十六夜を信用できぬのか」
「そういうわけじゃねえけどさ。俺の力が必要だったらいつでも言ってくれよ、って話」
「ああ、その時は頼む。どうやらこそこそ嗅ぎまわっている坊主がここにも出没しているらしいな、対策を講じよう」
主さまの屋敷は人が入ってこれないように術を施されてあるが、念には念を。
早く平安町の屋敷に帰って息吹から出迎えられたい晴明が腰を上げて庭を歩いて回っていると、息吹の代わりに庭の手入れをしていた山姫と遭遇した。
腰をかがめ、鋏を手に花の手入れをしている山姫の横顔は美しく、幼い頃から憧れていた女の存在が日増しに大きくなるのを感じる。
主さま以上のへそ曲がりがこの想いを受け入れてくれる日は来るのだろうか?
意識してくれているのは知っているが、どの位待てば応えてもらえるのか?
「山姫」
「!せ、晴明…いきなり声をかけるんじゃないよ、手元が狂っちまう」
「先ほどはすまなかったな。萌親子はしばらく我が屋敷に滞在する。息子の相模は今後私の小間使いとして働いてもらう予定だ」
「へえ、あたしには関係ないことだけど頑張んなよ」
相変わらずつれない返事をされて、傍らに立つと明らかに俯いた山姫の身体が緊張した。
…白く美しいうなじ。
触れてみたい欲求にかられながらも腰を折って屈むと山姫の手から鋏を奪い、手際よく傷んだ茎や花を落とした。
「…恐らくこれから荒れる。全力を賭すが…そなたには私の想いを知っていてもらいたい」
「…知ってるも何も…あんたはいつもあたしをそういう目で見てただろ」
「おや、気付いていたか。そなたを想うと夜も満足に眠れぬのを知っているか?」
「……知らないね。言っとくけどあたしはぐっすり眠れるよ」
つんつんした態度ではあるが、頬は緩んでいた。
とりあえず、それで満足した。
「ああ疲れた。あの男と居ると身も心もくたくたになってしまう」
「…なあ晴明、息吹は大丈夫なんだよな?」
冷たいお茶を運んできてくれた雪男がさも心配げに小さな声で問うてきたので顔を上げると…
雪男の顔を何か不吉なものがよぎった気がして、晴明は指で目を擦った。
「晴明?」
「いや、なんでもない。息吹は大事ない。私と十六夜を信用できぬのか」
「そういうわけじゃねえけどさ。俺の力が必要だったらいつでも言ってくれよ、って話」
「ああ、その時は頼む。どうやらこそこそ嗅ぎまわっている坊主がここにも出没しているらしいな、対策を講じよう」
主さまの屋敷は人が入ってこれないように術を施されてあるが、念には念を。
早く平安町の屋敷に帰って息吹から出迎えられたい晴明が腰を上げて庭を歩いて回っていると、息吹の代わりに庭の手入れをしていた山姫と遭遇した。
腰をかがめ、鋏を手に花の手入れをしている山姫の横顔は美しく、幼い頃から憧れていた女の存在が日増しに大きくなるのを感じる。
主さま以上のへそ曲がりがこの想いを受け入れてくれる日は来るのだろうか?
意識してくれているのは知っているが、どの位待てば応えてもらえるのか?
「山姫」
「!せ、晴明…いきなり声をかけるんじゃないよ、手元が狂っちまう」
「先ほどはすまなかったな。萌親子はしばらく我が屋敷に滞在する。息子の相模は今後私の小間使いとして働いてもらう予定だ」
「へえ、あたしには関係ないことだけど頑張んなよ」
相変わらずつれない返事をされて、傍らに立つと明らかに俯いた山姫の身体が緊張した。
…白く美しいうなじ。
触れてみたい欲求にかられながらも腰を折って屈むと山姫の手から鋏を奪い、手際よく傷んだ茎や花を落とした。
「…恐らくこれから荒れる。全力を賭すが…そなたには私の想いを知っていてもらいたい」
「…知ってるも何も…あんたはいつもあたしをそういう目で見てただろ」
「おや、気付いていたか。そなたを想うと夜も満足に眠れぬのを知っているか?」
「……知らないね。言っとくけどあたしはぐっすり眠れるよ」
つんつんした態度ではあるが、頬は緩んでいた。
とりあえず、それで満足した。

