主さまと『源氏の物語』を読み進めた後、いつものように部屋を掃除して萌に薬を飲ませたり相模に部屋を案内している間、通常昼間は眠っている主さまは息吹の部屋で少しだけ居眠りをしていた。
部屋に息吹が戻ってきた頃にはすうすうと寝息が聴こえて、幽玄町の自室以外でこうして安心しきって眠ることのない主さまの姿に瞳を細めた息吹は隣にころんと寝転ぶと、端正な美貌をじっと見つめた。
…睫毛が長くて本当に綺麗だ。
肌が自分より真っ白なのはちょっと不満だったが、少しひねくれてはいるけれど優しい主さまのお嫁さんになれることが本当に嬉しい。
「主さま…」
幽玄橋に捨てられたのはもはや不運ではなく幸運だ。
母親や父親に会ってみたかったけれど、もうどうでもいい。
自分だけを愛してくれるこの鬼と、死ぬまで一緒に生きてゆく――
「………ん…」
寝顔を見ているとだんだん眠くなってきてしまい、腕の中に勝手に転がり込んで瞳を閉じると一気に真っ暗になった。
『ぶき………息吹…』
『え…誰…?』
何度も名を呼ぶその声は聴き覚えがあり、晴明や主さまから重々“関わるな”と言われている人物のもので、辺りをきょろきょりと見回した息吹はそこが幽玄町で空海と出会った道端であることに気付いた。
『空海さん…?』
『そなたを必死に守る者が多くて参っている。夢の中に押しかけて申し訳ない』
真摯に頭を下げたのはいつの間にか目の前に立っていた空海で、笠を取ると氷菓子屋を指して笑いかけた。
『あそこに座ろう。氷菓子を奢ってやる』
『でも…主さまたちから会っちゃいけないって言われてるから…』
『これは夢。目覚めれば忘れてしまう。さあ』
肩を抱かれて促されると、厳しく言い付けられているのでなんとか脚を止めて空海を見上げた。
『私に関わると父様や主さまがすごく怒ると思うからやめた方がいいんです。お願いします』
――空海は静かな眼差しで息吹を見下ろし、手を伸ばして額に触れた。
熱を測るかのような仕草だったので、健康優良児の息吹がきょとんとしていると、空海は瞳を閉じて何かを探っているかのように見えた。
『あの…空海さん…?』
『やはり…そうか』
確信を得て、手を離した。
部屋に息吹が戻ってきた頃にはすうすうと寝息が聴こえて、幽玄町の自室以外でこうして安心しきって眠ることのない主さまの姿に瞳を細めた息吹は隣にころんと寝転ぶと、端正な美貌をじっと見つめた。
…睫毛が長くて本当に綺麗だ。
肌が自分より真っ白なのはちょっと不満だったが、少しひねくれてはいるけれど優しい主さまのお嫁さんになれることが本当に嬉しい。
「主さま…」
幽玄橋に捨てられたのはもはや不運ではなく幸運だ。
母親や父親に会ってみたかったけれど、もうどうでもいい。
自分だけを愛してくれるこの鬼と、死ぬまで一緒に生きてゆく――
「………ん…」
寝顔を見ているとだんだん眠くなってきてしまい、腕の中に勝手に転がり込んで瞳を閉じると一気に真っ暗になった。
『ぶき………息吹…』
『え…誰…?』
何度も名を呼ぶその声は聴き覚えがあり、晴明や主さまから重々“関わるな”と言われている人物のもので、辺りをきょろきょりと見回した息吹はそこが幽玄町で空海と出会った道端であることに気付いた。
『空海さん…?』
『そなたを必死に守る者が多くて参っている。夢の中に押しかけて申し訳ない』
真摯に頭を下げたのはいつの間にか目の前に立っていた空海で、笠を取ると氷菓子屋を指して笑いかけた。
『あそこに座ろう。氷菓子を奢ってやる』
『でも…主さまたちから会っちゃいけないって言われてるから…』
『これは夢。目覚めれば忘れてしまう。さあ』
肩を抱かれて促されると、厳しく言い付けられているのでなんとか脚を止めて空海を見上げた。
『私に関わると父様や主さまがすごく怒ると思うからやめた方がいいんです。お願いします』
――空海は静かな眼差しで息吹を見下ろし、手を伸ばして額に触れた。
熱を測るかのような仕草だったので、健康優良児の息吹がきょとんとしていると、空海は瞳を閉じて何かを探っているかのように見えた。
『あの…空海さん…?』
『やはり…そうか』
確信を得て、手を離した。

