主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

さっさと席を立った晴明は、続いて腰を上げて並んで歩こうとした空海を見止めて廊下でぴたりと脚を止めた。


「私の先程の言葉、聴いてはいなかったのか?」


「そうけしかけないで頂きたい。私たちが揃っていた方が早く見つかると思うのですが」


「そうかな?とにかく共同戦線を張った覚えはない。ちなみに幽玄町には居ないだろう、主さまからそのような話は聞いたことがないからな」


「ああ、百鬼夜行の王ですな。晴明殿はお知り合いだとか。いつか私も会ってみたいものです」


「主さまを封じられては困る。そなたと引き合わせることは天地が逆さまになろうともありえぬだろう」


これで話は終いだと言わんばかりに身を翻すと牛車に向けて歩き出した晴明を見送った空海は、背後でじっと様子を窺っている道長に笑顔を向けた。


「道長殿は私のお目付け役ですか?晴明殿は慎重な方だ」


「…息吹に興味を持っていると聞いております。息吹は普通の人間ですし、多少妖とは縁がありますが、ただそれだけのこと」


「そうですかな?私には普通には……まあいい、行きましょう」


聞き捨てならない台詞にいきり立った道長は、空海に詰め寄ると柱に身体を叩き付け、喉元を押さえて鞘に手をかけた。


「ならん。息吹に近づくな」


「…わかりました。私は大人しく御子の捜索に骨を折りましょう」


…いけ好かない坊主だ。

道長が空海に抱いた感想は晴明と大して変わらないもので、外へ向かうと思いきや、空海が向かったのは後宮の奥にある空き部屋だった。

慣れた足取りでそこへ入ると、部屋の真ん中で座禅を組んで瞳を閉じた。


「何をしている」


「ご覧の通り、瞑想です。特別な気配がないか探っているのですが…なかなか引っかかってはもらえない」


常に何かを言い含んだ言い方をする空海の口元には笑みが浮かんでおり、すぐ傍にどっかりと腰を下ろした道長は片時も空海から目を離さずに押し黙る。


…何かよからぬことを画策しているように見える。

晴明が気を揉むはずだ、と納得しつつも、帝さえも信用する口の上手さと笑顔に騙されないように気を張って空海を監視し続けた。


そうして空海は、息吹の夢の中へと潜り込んだ。