主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

「では十六夜、私たちは参内する故後は任せた」


「ああ」


言葉少なな主さまと笑顔で手を振る息吹に見送られた晴明と道長は屋敷の門を出て牛車に乗り込み、まだ気落ちしている道長の肩を叩いた。


「そう気落ちするな。心の隙間を魔に巣食われてしまうぞ」


「…あの男が魔じゃないのか」


「妖ではあるが、悪さをする妖を統率する者だ。あの役割をもし凶悪な妖が担った場合、平安町など一瞬で消し去られるぞ」


「…まだ直接断られたわけじゃないが…諦めた方がいいんだな?」


「紫式部に慰めてもらえ」


人はほんのわずかな気の緩みで魔に巣食われてしまう。

道長は豪胆だったが根は繊細で、気配りもよくできる男だ。

だからこそ晴明はこの時油断をしていたのだが――


晴明たちが朝廷へ着いた時、御所にはすでに空海が帝の傍に侍っていた。

本来御簾越しで話さなければならない帝は御簾を上げて空海をすぐ傍まで召し上げており、入り口で立ち止まった晴明は道長にひそりと声をかけた。


「あの坊主をよく注視していてくれ。息吹を狙っているやもしれぬ」


「なに。わかった俺に任せろ」


思惑を綺麗に隠して笑顔で中へ入った晴明を見た帝は一瞬後ずさりをする仕草を見せた。


…もちろん、晴明から復讐されたことがきっかけで子種を失ったのだから、そうならざるを得ないのはわかるが、そんな反応は晴明を喜ばせるだけ。


「おやおや、どうしましたかな?私が鬼にでも見えましたか」


「あ、あの鬼は大人しくしているのだろうな?」


「ああ、幽玄町の主さまのことですか。相変わらず息吹をよく守り、町をよく守ってくれていますとも。また怒らせぬが得策ですな」


「一条天皇、その主さまとやらに1度会ってみたいのですが」


空海が進言すると、帝はすぐさま首を振って肩を震わせた。


「ならぬ!あの鬼は恐ろしい鬼だ。そんなことよりもそなたには引き続き私の子を…」


「承知しております。私にお任せ下さい」


帝に尻尾を振っているように見えるが、実際は信頼を寄せている帝を利用せんとしているのを晴明は看破していた。


この男はやはり…


「では晴明殿、共に帝の御子の捜索に向かおうではありませんか」


「いや、別行動させて頂く。そなたとは馬が合いそうにない」


きっぱり。