道長が手にしているのは宝刀で、妖を斬る能力がある。
だが主さまの手には天叢雲があり、刀の中で最も強力な妖力を備えている刀だ。
道長は、妖の主に魅了されてしまったかもしれない息吹を案じ、腰を上げて息吹の部屋へ行こうとしていた。
「道長、待て。どこへ行く?」
「息吹の所だ。晴明…いくらそなたの旧友と言えどあれは幽玄町の主だぞ。百鬼夜行の…」
「ああもちろん知っているとも。それであ奴がそなたに何か迷惑をかけたか?息吹を朝餉を摂っているだけだろう」
「だが…息吹は魅入られたのでは…」
「違うな。あの子はもっとも妖に耐性のある子だ。あの子が十六夜に魅入られたのであれば、心からだろう。どうしても、と言うのであれば様子を見に行くといい。その代りその刀を使ってどうこうしようとは思うな」
晴明に念押しをされた道長は仏頂面で腰を上げて息吹の元へ向かった。
自分は息吹に求婚している身なのだから、息吹が今何を考えてどうしようとしているのかを知る権利位はある。
…最近特に綺麗になったのは…恋をしているからなのか?
自分にではなく…あの色気たっぷりの妖の王に?
「でね、主さま…」
部屋の傍へ行くと息吹の声が聴こえた。
“主さま”と呼ばれている妖の男の声は一切聴こえず、一方的に息吹が話している声で、少し開いていた襖からそっと中を覗き込むと…
「…息吹…」
息吹は主さまの膝に座って、『源氏の物語』を読み解いていた。
主さまは息吹の高くて可愛い声で読み進められる物語に耳を傾けていて、なおかつ息吹の腰を抱いている左手は力強く、2人はまさしく恋人同士のように見えた。
――だが主さまとて妖を率いる妖の王。
道長が来たことに気付いており、ふっと襖の隙間に目を遣ると、道長は驚いたように身を引いて隠れた。
「…盗み見か」
「え?今せっかくいい所なのに…なあに?」
「なんでもない。続きを読め」
…息吹は妖の元へ嫁いでいってしまうのだろうか。
晴明はそれを許すのだろうか?
幸せにしてやれる、と思っていたけれど…どうやら息吹は自分の手を選びそうにない。
「どうだ道長。何を見てきた?」
肩を落として縁側に戻ると、道長は力なく隣に座って深いため息をついた。
「…俺は失恋したらしい」
晴明は無言で道長の肩を抱いた。
だが主さまの手には天叢雲があり、刀の中で最も強力な妖力を備えている刀だ。
道長は、妖の主に魅了されてしまったかもしれない息吹を案じ、腰を上げて息吹の部屋へ行こうとしていた。
「道長、待て。どこへ行く?」
「息吹の所だ。晴明…いくらそなたの旧友と言えどあれは幽玄町の主だぞ。百鬼夜行の…」
「ああもちろん知っているとも。それであ奴がそなたに何か迷惑をかけたか?息吹を朝餉を摂っているだけだろう」
「だが…息吹は魅入られたのでは…」
「違うな。あの子はもっとも妖に耐性のある子だ。あの子が十六夜に魅入られたのであれば、心からだろう。どうしても、と言うのであれば様子を見に行くといい。その代りその刀を使ってどうこうしようとは思うな」
晴明に念押しをされた道長は仏頂面で腰を上げて息吹の元へ向かった。
自分は息吹に求婚している身なのだから、息吹が今何を考えてどうしようとしているのかを知る権利位はある。
…最近特に綺麗になったのは…恋をしているからなのか?
自分にではなく…あの色気たっぷりの妖の王に?
「でね、主さま…」
部屋の傍へ行くと息吹の声が聴こえた。
“主さま”と呼ばれている妖の男の声は一切聴こえず、一方的に息吹が話している声で、少し開いていた襖からそっと中を覗き込むと…
「…息吹…」
息吹は主さまの膝に座って、『源氏の物語』を読み解いていた。
主さまは息吹の高くて可愛い声で読み進められる物語に耳を傾けていて、なおかつ息吹の腰を抱いている左手は力強く、2人はまさしく恋人同士のように見えた。
――だが主さまとて妖を率いる妖の王。
道長が来たことに気付いており、ふっと襖の隙間に目を遣ると、道長は驚いたように身を引いて隠れた。
「…盗み見か」
「え?今せっかくいい所なのに…なあに?」
「なんでもない。続きを読め」
…息吹は妖の元へ嫁いでいってしまうのだろうか。
晴明はそれを許すのだろうか?
幸せにしてやれる、と思っていたけれど…どうやら息吹は自分の手を選びそうにない。
「どうだ道長。何を見てきた?」
肩を落として縁側に戻ると、道長は力なく隣に座って深いため息をついた。
「…俺は失恋したらしい」
晴明は無言で道長の肩を抱いた。

