主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

「主さまっ、2人で食べよ」


息吹の部屋で襁褓を替えてもらって上機嫌の赤子の指を握って遊んでやっていた主さまが顔を上げ、その表情に息吹は首を傾けた。


「?もしかして怒ってるの?」


「…道長が来ている」


「うん、父様の友人だもん。私がここに来た時から大きくなるまでずーっと遊んでくれたんだから。とっても良い方なの」


「…」


惚れた女に“良い方”などと言われて喜ぶ男など居るはずがない。

内心主さまは笑いを噛み締めながらも赤子を膝に乗せ、目の前に膳を下ろした息吹が脱兎の如く自分の分の膳を取りに行った姿にはにかんだ。


「お待たせっ。今日はね、主さまの好きな大根のお漬物を漬けてみましたっ」


「自分で漬けたのか」


「うん、それ位できるよ。ねえ主さま、私と夫婦になっても私が作った料理を食べてほしいな。食べなくてもいいのは知ってるし、ままごとに付き合ってくれてるだけっていうのも知ってるけど…」


「…食う。妙な心配はするな」


本当は息吹を撫で回してべたべたしたいのだが、そういうのは妄想で精いっぱいの主さまが精一杯の愛情でもってそう返すと、息吹はにこっと笑って主さまの膳から枇杷を取ると皮を剥いてやりながら相談事をした。


「あのね、道長様に求婚のお断りをしなくちゃいけないんだけど…どうしたらいいと思う?」


…ただでさえ道長を毛嫌いしているというのに、しかも2人きりで楽しい時間のはずが一気に台無しになった主さまは箸を置くと、膝から見上げてくる赤子に視線を落としてぶっきらぼうに答えた。


「“どうしたらいいと思う?”とはどういう意味だ。“お受けします”とでも言うつもりか?」


はっとなった息吹は膳を脇に寄せて主さまの真ん前ににじり寄ると真剣な顔つきで訴えた。


「違うよ!どうやったら道長様に納得してもらえるかなって…傷ついてほしくないし…」


「きれいごとを言うな。どんな方法にしろ傷つくに決まっている。お前が道長に気を遣えば遣うほど、俺が傷つくことを忘れるな」


――一気にしゅんとなってしまった息吹が俯いてしまうと、小さな息をついた主さまは赤子を息吹の膝に乗っけて、今度は膝に赤子を乗せた息吹を自分の膝に乗せた。


「お前は誰の嫁になりたいんだ?言ってみろ」


「…主さま」


「じゃあ他の男に気を遣うな」


頷いた。