主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

相模が一条天皇の落胤であることを息吹はしらないままだが、それについてはこちらから教えずにおこうということで話がまとまった。

また相模自身もその事実を知らないようで、だが朝廷の者が平安町のあちこちで探りを入れていることは萌の耳にも入っていたのだ。


「どうして今頃…。それに子種がどうとか…?」


「帝が息吹に悪戯をしでかしたため、私が仏の御業で罰を下した。一条天皇にはもう子を作る能力がない。故にそなたたちを匿うのは、私の責任でもある」


「そんな…それは違います」


「ともかく相模が帝の手に渡らぬようしばらくは滞在を。私ものらりくらりと話を逸らしてみよう」


――主さまは酒を口に運びつつじっくりと萌を観察していた。

…確かにたおやかで儚い感じにそそられる男も多いだろうが…主さまの食指を刺激することはなかった。


「ありがとうございます。息吹さんにも何から何まで…。しかも十六夜さんと落ち合う道中で相模が…」


「気にすることはない。その男は息吹が居る場所に必ず現れるからな。さあもう休みなさい」


晴明がにこりと微笑んで離れを指すと、息吹と相模がきゃっきゃと声を上げながら戻ってきたので、晴明は萌を立たせていきなり抱き上げて萌に声を上げさせた。


「せ、晴明様っ?」


「相模が脚が悪い。私が運んでやるから掴まっていなさい」


一瞬息吹が複雑そうな表情を浮かべたのを見逃さなかった主さまは黙ったまままた酒を飲みつつ渡り廊下の庇の下を歩いていく晴明たちを見送った後、手招きをして息吹を隣に座らせた。


「…どうした」


「え、何が…?」


「晴明と萌が仲睦まじげにしているのを好ましく思っていない顔をしていた」


「…だって…父さまには母様が…」


「違う選択肢もある。晴明は半分が人で半分は妖だ。どちらとも共存できる」


「…母様が…」


――晴明と山姫が夫婦になってくれればとても嬉しいが、主さまが言うことも一理あるし、あんなに萌に優しくしているのだから、もしかしたら晴明は萌に気があるのかもしれない。

それは…ちょっぴり複雑な気分になる。


「…俺からも山姫を急かしてみる。…何もかも晴明の思うつぼな気がするが」


「?」


主さまの予想は、当たっていた。