息吹がもじもじしてしまったので、それが伝染した主さまは身じろぎをしつつもまっすぐ相模を見据えて怯えさせた。
主さまの眼力に耐えられる人間はそうそう居るはずもない。
純粋な子供ならばなおさら敏感にそれを感じ取れる。
「じゃあ…息吹は十六夜さんの…」
「俺の女だ」
相模に“十六夜さん”と呼ばれてしまってかなり腹が立ったが、“主さま”と呼ばれてしまうと素性がばれてしまう。
幽玄町の主の通称が“主さま”であることは誰もが知っているから、息吹と晴明は真実の名で主さまを呼ぶしかできないのだ。
「ちょ、やだっ、“俺の女”とか言わないでっ」
「何が違う?お前は俺の嫁になるんだろうが」
「そっ、そうだけど…」
「そうなんだ!?嫁って…ふうん…そうなんだ…」
明らかに気落ちした相模の肩を抱いたのは母の萌で、真剣に落ち込んでいるのにくすくす笑いながら頭を撫でてやった萌は相模の頬を突いて破裂させるとこそりと耳打ちをして相模を赤面させた。
「年上が好きなの?」
「そっ、そんなんじゃないし!」
「十六夜さん、このお漬物すっごく美味しいんだよ。好きでしょ?私の分けてあげるね。だからこれちょうだい」
勝手に主さまの小皿に漬物を乗せて、違う皿から鶏肉のかけらを攫った息吹は早速それを口にして幸せそうに笑い、主さまは瞳を細めて盃を手にすると直視している相模を揶揄するようにちらりと上目遣いで挑発した。
「…なんだ?」
「!な、なんでもないっ。お母ちゃん、この七草粥美味しいね。俺、早く元気になって働けるように頑張るから!」
「ああ、その話なんだが。魚屋を解雇されたと聞いた。そなたさえよければ私の小間使いとして働いてもらいたいのだが
「…え?」
「働きに応じて賃金をはずむ。住居も替えなさい。私が用意してやる故、何も案ずることはない」
「父様…」
晴明の心遣いに主さま以外の皆が感動し、主さまはぼそっと不満を口にした。
「…小間使いだと?」
「何が問題だ?息吹はいずれそなたの嫁になるのだから関係あるまい」
「…」
とにかく男を息吹に近づけさせたくなかったが、晴明に抗議したとて口で言い負かされるのは目に見えているので、主さまはだんまりを決め込んで酒を口に運んだ。
主さまの眼力に耐えられる人間はそうそう居るはずもない。
純粋な子供ならばなおさら敏感にそれを感じ取れる。
「じゃあ…息吹は十六夜さんの…」
「俺の女だ」
相模に“十六夜さん”と呼ばれてしまってかなり腹が立ったが、“主さま”と呼ばれてしまうと素性がばれてしまう。
幽玄町の主の通称が“主さま”であることは誰もが知っているから、息吹と晴明は真実の名で主さまを呼ぶしかできないのだ。
「ちょ、やだっ、“俺の女”とか言わないでっ」
「何が違う?お前は俺の嫁になるんだろうが」
「そっ、そうだけど…」
「そうなんだ!?嫁って…ふうん…そうなんだ…」
明らかに気落ちした相模の肩を抱いたのは母の萌で、真剣に落ち込んでいるのにくすくす笑いながら頭を撫でてやった萌は相模の頬を突いて破裂させるとこそりと耳打ちをして相模を赤面させた。
「年上が好きなの?」
「そっ、そんなんじゃないし!」
「十六夜さん、このお漬物すっごく美味しいんだよ。好きでしょ?私の分けてあげるね。だからこれちょうだい」
勝手に主さまの小皿に漬物を乗せて、違う皿から鶏肉のかけらを攫った息吹は早速それを口にして幸せそうに笑い、主さまは瞳を細めて盃を手にすると直視している相模を揶揄するようにちらりと上目遣いで挑発した。
「…なんだ?」
「!な、なんでもないっ。お母ちゃん、この七草粥美味しいね。俺、早く元気になって働けるように頑張るから!」
「ああ、その話なんだが。魚屋を解雇されたと聞いた。そなたさえよければ私の小間使いとして働いてもらいたいのだが
「…え?」
「働きに応じて賃金をはずむ。住居も替えなさい。私が用意してやる故、何も案ずることはない」
「父様…」
晴明の心遣いに主さま以外の皆が感動し、主さまはぼそっと不満を口にした。
「…小間使いだと?」
「何が問題だ?息吹はいずれそなたの嫁になるのだから関係あるまい」
「…」
とにかく男を息吹に近づけさせたくなかったが、晴明に抗議したとて口で言い負かされるのは目に見えているので、主さまはだんまりを決め込んで酒を口に運んだ。

