晴明の屋敷へ戻るとすぐに準備に取り掛かったのだが、良い匂いを嗅ぎつけた相模が萌を伴って早めに母屋に現れた。
「息吹、俺に手伝えることがあったら…」
「じゃあ薬草を切ってもらえる?」
脚は不自由だが手は動くのでお願いしてみると、相模の包丁を持つ手つきは慣れたもので、もしかしたら息吹よりも手つきがよかったかもしれない。
それを口に出すのは悔しいので、お姉さんぶってあれこれ指示していると、晴明たちの話し声が聴こえた。
…そこに主さまも居るし、萌も居る。
萌は本当に綺麗な女だったのでちょっとだけやきもきしたが、あんなに不器用な主さまなのだから自分以外の女を構うはずがない。
主さまを信じて七草粥と汁物、そして味付けをした鶏肉と野菜を添えてお盆に乗せると気が逸りながらも相模のためにゆっくりと晴明たちの元へと戻った。
この季節、庭には蛍がやってくる。
陽も暮れて薄暗くなった庭には徐々に蛍が集まってきて、幻想的な世界を醸し出していた。
「萌さん、これを食べて元気になって下さいね」
「こんな豪華な…ありがとうございます…」
肩には晴明の白い羽織。
晴明が気遣ってくれるのは嬉しいのだが…息吹にとっては複雑だ。
山姫と晴明こそがお似合いの夫婦になると思っているのだから、もしこの光景を山姫が見たら…と考えると少しだけ無口になってしまった。
「息吹、隣に座れ」
「あ、うん」
――息吹の隣に座ろうとしていた相模を牽制するかのように主さまが声をかけると、まだ子供で感情をうまく隠すことのできない相模の唇が尖った。
してやったりの主さまがにたりと口角を上げると、壮絶に綺麗な主さまに恐れを為したのか、相模は俯いて主さまを見ないようにした。
…子供だからこそなんとなくわかるのだ。
主さまが“人ではないかもしれない”ということに。
「事情はわかった。…だったらしばらくは俺がここに通う」
「え?ほんとっ?主さ……十六夜さん…嬉しい」
また名を呼ばれてぞくっとしてしまった主さまはそれを隠すかのように酒を呷り、晴明からくすりと笑われた。
「…なんだ」
「いや、なんでも」
「息吹…その人…恋人なの?」
いざそう問われると言葉に詰まったのだが、それには主さまが明確に答えた。
「そうだ」
息吹、赤面。
「息吹、俺に手伝えることがあったら…」
「じゃあ薬草を切ってもらえる?」
脚は不自由だが手は動くのでお願いしてみると、相模の包丁を持つ手つきは慣れたもので、もしかしたら息吹よりも手つきがよかったかもしれない。
それを口に出すのは悔しいので、お姉さんぶってあれこれ指示していると、晴明たちの話し声が聴こえた。
…そこに主さまも居るし、萌も居る。
萌は本当に綺麗な女だったのでちょっとだけやきもきしたが、あんなに不器用な主さまなのだから自分以外の女を構うはずがない。
主さまを信じて七草粥と汁物、そして味付けをした鶏肉と野菜を添えてお盆に乗せると気が逸りながらも相模のためにゆっくりと晴明たちの元へと戻った。
この季節、庭には蛍がやってくる。
陽も暮れて薄暗くなった庭には徐々に蛍が集まってきて、幻想的な世界を醸し出していた。
「萌さん、これを食べて元気になって下さいね」
「こんな豪華な…ありがとうございます…」
肩には晴明の白い羽織。
晴明が気遣ってくれるのは嬉しいのだが…息吹にとっては複雑だ。
山姫と晴明こそがお似合いの夫婦になると思っているのだから、もしこの光景を山姫が見たら…と考えると少しだけ無口になってしまった。
「息吹、隣に座れ」
「あ、うん」
――息吹の隣に座ろうとしていた相模を牽制するかのように主さまが声をかけると、まだ子供で感情をうまく隠すことのできない相模の唇が尖った。
してやったりの主さまがにたりと口角を上げると、壮絶に綺麗な主さまに恐れを為したのか、相模は俯いて主さまを見ないようにした。
…子供だからこそなんとなくわかるのだ。
主さまが“人ではないかもしれない”ということに。
「事情はわかった。…だったらしばらくは俺がここに通う」
「え?ほんとっ?主さ……十六夜さん…嬉しい」
また名を呼ばれてぞくっとしてしまった主さまはそれを隠すかのように酒を呷り、晴明からくすりと笑われた。
「…なんだ」
「いや、なんでも」
「息吹…その人…恋人なの?」
いざそう問われると言葉に詰まったのだが、それには主さまが明確に答えた。
「そうだ」
息吹、赤面。

