主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

数時間ほど相模と遊んだ後、相模は離れの萌の元へと戻っていき、息吹と主さまは部屋で2人きりになった。


「主さま居るんでしょ?今日は会いに行けなくてごめんね?」


「……あいつは何だ?」


すう、と姿を見せた主さまは不機嫌そうにしていたが、やましいことを一切したつもりのない息吹はきちんと正座をして隣の畳をぽんぽんと叩いた。


「ここに座って。ちゃんと主さまが納得してくれるまで話すから」


「…」


子供扱いをされてまた臍を曲げると、息吹が噴き出して両手で口元を隠しながらくすくすと笑い、主さまは悪化の一途を辿りつつも息吹の隣に座り、顎を取って上向かせた。


「何がおかしい?」


「やきもち妬いてくれてるんでしょ?相模はまだ子供だよ?」


「…お前もまだ乳臭い餓鬼じゃないか。餓鬼同士貝合わせなんかしてさぞ楽しかっただろうな」


「乳臭い餓鬼じゃないもん。ちゃんと成長してる部分だってあるもん。ほら、触ってみる?」


「な、やめろ、手を離せ!」


主さまの手を握って胸元に引き寄せようとした息吹と、必死の抵抗をしている主さまを見た晴明は、顎に手を添えながら襖に寄りかかった。


「私の愛娘がどこぞの鬼を誑かそうとしているように見えるが気のせいだろうか?」


「ち、父様!ち、違います、主さまが私のこと乳臭いっていうから…」


「ああ、どうせ相模と仲睦まじくしている様子を見ていじけたのだろう?そのような狭量の男は放っておきなさい」


――晴明の意志は息吹の意志。

息吹は晴明に恩があるから逆らわないし、息吹は晴明の言うことなら間違いないという太鼓判を押している。


よって確実に主さまが不利になるよう晴明が仕向けてくるのは必至なので、主さまはがりがりと髪をかき上げると背中を向けた。


「先ほど萌が眠ったから起きる頃に夕餉を摂ろう。十六夜、そなたも共にどうだ」


「…萌とは誰だ?」


「相模の母様なの。幽玄町へ行く途中に牛車で相模を轢いてしまって…」


ようやく事情が呑み込めた主さまは内心ほっと胸を撫で下ろすと、急に心が晴れて頬をかきながら肩越しに息吹を振り返った。


「…俺も夕餉を摂る」


「わあ、良かった!じゃあ準備してくるねっ」


息吹が居なくなった後晴明が笑い出し、主さまがぷいっと顔を背けるとさっそく主さまいじめが始まった。