主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

妖の世界では、主さまと雪男が最も美しく華のある妖で、彼らがどんな女を妻にするのかもっぱら噂になっていた。


息吹にとっては主さまも雪男も育ての親に違いないが、それぞれに抱いている感情はまるで違う。

ただ…雪男は時々とても男らしくなったりどきどきすることを言ってきたりするので、侮れない。

現に動揺の表れか茶碗を割ってしまい、ため息をつきながら破片に手を伸ばすと、その手を掴んで止めた者が在った。


「主さま?」


「危ないから触るな。俺がやる」


「ありがと…」


――頬を赤らめている息吹に気付いた主さまは、無言で破片を片付けながら息吹の様子を窺っていた。

先程息吹が台所へ行ってからすぐ雪男が席を立って息吹の元へ行ったのはわかっている。

後で雪男はとっちめてやろうとは思っていたが、息吹に何があったのかを強要するのは正直気が引ける。


…大人げないと思われるのはいやだ。

もう思われているかもしれないが、息吹の前では男らしく在りたいと思う。


試行錯誤の末、息吹が怪我をしないように茶碗の破片を片付けながらどうやって聞き出そうかと目まぐるしく考えを巡らせていると、息吹の方からその理由を教えてくれた。


「さっきね、雪ちゃんが来たの。…ぎゅってされちゃった」


「…あの餓鬼…」


自分のものに手を出すとどうなるか…

1度教えてやる必要があるな、と独りごちながら片づけを終え、ちらりと息吹に目を遣ると、何か言いたげに口をもごもご動かしていた。


「…だからなんだ」


「なんだって言われても…。ほ、報告っ。私が隠し事をすると主さますぐ怒るから」


「当然だ。で、お前がどうして顔を赤らめているのか、それを教えてもらおうか」


結局黙っていられずに問い質すと、息吹がぴたっと背中に張り付いてくると身体に腕を回してきた。


「だって雪ちゃんかっこいいし…あ、でもでも主さまの方がかっこいいからっ。だから安心してねっ」


「な…っ、お、お世辞を言うな!もういい、離れろ!見られるとまずいことになるぞ」


「あ、そ、そっか」


身体を起こした息吹の額を指で突き、居間を顎で指した。


「誰にも勘付かれるな。時が来たら俺から皆に言う」


「うん」


今は耐える時。

今は、耐え忍ぶ時。