主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

母を殺され、朝廷を呪って生きてきた晴明にとっては、一条帝は何度殺しても殺し足りない存在だ。

そんな男を前にのほほんとしていられるのは、息吹が母を取り戻してくれたから。

もし未だあの埃っぽい蔵の中で眠りについていたならば…どうやって帝と朝廷を滅ぼしてやろうか、そのことばかり考えていたかもしれない。


「落胤を私に?空海殿が居られるのだから私は必要ないでしょう」


「そなたと空海が協力すれば容易く見つかるはずだ。私は…息吹姫を手に入れようとしたばかりに大切なものを失った。…今はそれを後悔している」


「この因縁は幼き頃の帝が遊び心で私の母を狩ったことから始まっておりまする。あなたはそれ相応の罰を受ける必要があった。私は辛酸を舐めながら機会を待っておりましたよ」


場違いにふわりと笑った晴明に背筋を震わせた帝は空海に目配せをすると、空海は晴明の隣に座りながら聞き捨てならないことをぼそりと呟いた。



「そなたの愛娘は息吹…という名でしたな。赤子を腕に抱いて幸せそうにしていた様子が初々しかった」


「…息吹に会ったのか?何のために?」


「はて。晴明殿…私たちが協力してご落胤を探し出せば手出しはせぬ。ちなみに何に手出しをするかは不問にて」


「ほほう、面白い。もし私の大切なものに手出しをした場合、帝に降りかかった災難以上のものがそなたに降りかかることを忠告しておこう」


――晴明と空海は笑みを浮かべながらも激しい火花を散らし、帝は2人に恐れを為しながらも扇子で畳を叩いて注意を引かせた。


「わかり合えたならば今すぐにでも捜しに行け。もしまだ生きているならば…8歳程度の男子だ。その子の母は薄幸の美女という感じの病弱な女だ。頼んだぞ」


「帝よ、私は別に良いですが…息吹に手出しをするつもりならば、私とあの百鬼夜行の王を再び敵に回す覚悟をなさった方がよい。さあ空海殿、行きましょうぞ」


のんびりと立ち上がりながらも晴明は空海への警戒を解いてはいなかった。

先程から見えない糸で身体を縛られているような感覚があり、腕にふっと息を吹きかけると圧迫感が消え、首を鳴らして笑いかけた。


「洒落臭い。私は逃げたりなどせぬ」


「そなたはそうかもしれぬが、あの息吹と言う女子………いや、なんでもない」


晴明は言いかけてやめた空海を睨みつけた。