主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

久しぶりに一条天皇と御簾越しに対面した晴明は笑みを絶やさず、きょろりと密室を見回した。


「完膚なきまでに破壊したつもりでしたが、いやいやさすが帝のお力。復興が早い」


「…晴明…そなたの此度の悪行、私は全く許してはいない。私を馬鹿にすると痛い目に遭うぞ」


「ほう?また痛い目に遭いたいと?」


「…」


だんまりを決め込んだ帝と晴明が御簾越しでにらみ合い、根負けしたのは帝で、御簾がするする上がるとやつれた顔が現れて晴明をひそりと笑わせた。


「おや、やつれておいでですな。私の仕掛けた悪戯が堪えたと見える」


「…本題に入ろう。…息吹姫は達者か?」


「ふむ?それが本題ですか?息吹に関わると次は何を無くすか…私は保障いたしませぬぞ」


帝は晴明の術によって子種を奪われた。

そのために唯一の落胤を探し出すために宮廷が必死になっている様子もひしひしと窺える。

何もかも知っておきながらうそぶく晴明の態度に帝はきりきりしながらも、高い矜持をなんとか捻じ伏せて扇子で膝を叩いた。


「私は息吹姫に関わったがために種を失った。皆の失望も買った。これ以上落ちるわけにはゆかぬ。晴明…そなたが奪ったものを戻せるか?私の種を…」


「無理ですな。仏の力によって奪われたものを私が取り戻せるとお思いか?もしや私を呼び出した理由はそれではありますまいな」


ぎり、と歯ぎしりをした帝の様子が面白くてまたひそりと笑みを浮かべていると、突然金縛りのような症状に見舞われ、ゆっくりと振り返った。



「そなたが安部晴明か。これは近代稀に見る術士ですな」


「…ただの僧ではないな。阿闍梨か?」



いつの間にそこに立っていたのか…

印を構えた死覇装を着た男がひたと晴明を見据え、晴明は笑みを絶やさずに僧の術に抵抗しながら印を構えて真一文字に切ると、何かが弾けるような音がして身体の自由が戻った。


「私は空海。帝の命により、唐から帰国した。そなたを乗りこなすための者と思っていい」


「私を乗りこなすために?そのようなことは私の愛娘にしかできぬことだが。帝よ、何やら壮大な計画を練っているようですが、どうあがいても種は元に戻りませぬぞ」


「…そなたには私が平民の女に生ませた子を探し出してもらう。私の世継ぎはその子しか居らぬのだ」


晴明は瞳を丸くしてまた笑った。