主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

珍しく息吹と1日会わなかった晴明は、以前鬼八の件で訪れていた高千穂にまつわる資料を集め、頭を悩ませていた。


…息吹は人なのか、それとも否か…


何かしら不思議なものは感じるが、それが一体何なのかは晴明の力量でもわからない。

天孫降臨の地とされる高千穂は、息吹の祖となる鵜目姫が生まれ育った地。

祖が神であることはわかったが、数千年もの間にその血が薄まり、人と何ら変わりない状態だったのか、そうでないのか――


「探るしかないか。だが…息吹の精神に影響を及ぼすのでは…」


術で息吹の精神に潜り、糸口を見つける――

ただそれを失敗してしまうと、息吹の精神が…自我が崩壊してしまうかもしれない。

それだけはしたくない。

今の息吹に、今のままでいてほしい…


晴明は葛藤していた。


「…?誰か来たな。行っておいで」


傍に座っていた式神の童女を促して玄関の扉を開けさせると、そこには直衣と烏帽子を被った武官が数人立っていた。


「安部晴明、帝がお呼びであらせられる。今すぐ参内するように」


「帝が私を?まだ懲りぬと見えるな。一体どういうことか説明してもらおうか」


――晴明が宮廷と一条帝にしでかした悪行…

未だ宮廷は足並みがそろっておらず、しかも帝の落胤探しに躍起になっている状態での晴明への参内命令は、いかに今猫の手も借りたい状態になっているのかが窺い知れた。

また晴明を迎えに来た武官たちも警戒を解かず、薄笑いを浮かべる晴明を不気味に感じて庭に散らばって遠巻きから輪を狭めていた。


「そなたに会わせたい者が居られるとのことだ。さあ、今すぐ共に参内せよ」


「ほう?私に知り合いなど居らぬはずだが。だが面白そうだから行ってみてやろう。牛車はどこだ?」


のんびりと腰を上げ、のんびりとした動作で屋敷を出ると用意されていた牛車に乗り込み、扇子を広げて口元を隠すと笑みを浮かべた。


「また私を面倒事に巻き込むつもりだな。まあいい、帝がどのような顔で私を出迎えるのか楽しみだな」


…相変らず底意地の悪いことを考えながら宮廷へ向かい、そして庭へ着いた時にはすでにとある者の気配を捉えていた。


「法力……僧か」


密かに指を振って自身の回りに結界を張ると、中へと乗り込んだ。