主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

…なんとか夜を越すことができた。


元々夜行性の主さまにとっては簡単なことだったが、息吹は…

結局息吹が眠ったのは朝方になってのことで、主さまはその間に赤子が泣かないように襁褓を替えたり乳を含ませたりしてあやしてやっていた。


「十六夜、起きているか?」


「銀か」


縁側の方から声をかけてきたのは銀で、赤子を腕に抱くと障子を開けて縁側に出て銀を見下ろした。


「様になっているな。お前が育ててみたらどうだ?息吹の時のように」


「これはお前が拾ってきたんだろうが。お前が育てろ」


赤子を銀の腕に押し付けると、銀は手慣れた手つきで赤子を抱き、ぷにぷにの頬を軽く引っ張った。

そして主さまは銀の耳がぴょこぴょこ動いたり、尻尾がわさわさと動いたりするのを横目で見つつ煙管を噛み、鼻で笑った。


「どうした、喜んでいるぞ」


「なに?別に喜んではいない」


「尻尾や耳が動いている。喜怒哀楽が如実に表れる場所だろう?嘘をつくな」


「ふむ、ばれていたか。実は子供と戯れるのは嫌いじゃないんだ。この子だって放っておけば……いや、これ以上言うのはよしておこう」


目が見え始めたばかりの赤子はじっと銀を見上げ、小さな紅葉のような手を伸ばして銀の人差し指を握った。

…小さなものに触れていると、自然と愛着が沸いてくる。

主さまだってそうなのだから、この赤子を拾った銀はもっと愛着を感じているはずだ。


「もう少し構ってやりたいんだが、生憎面倒な奴に追われているからしばらく身を隠す。その子を頼んだぞ」


「あ、おい…」


再び主さまの腕に赤子を押し付けるとさっさと玄関の方へと回って行ってしまい、呆れ果てながら赤子に目を落として小指を吸われていると、息吹が起きてきた。


「主さまおはよ…」


「ああ。今銀が来ていたんだが」


「えっ?ええー?!耳とか尻尾とか触りたかったのにっ」


「……何者かに追われている、と言っていた。だからしばらく来ないと思うぞ」


「え……、追われてる…?」


――ぴんときた。

銀が追われ、この国に戻ってきたこと…

銀を追って、この国に戻ってきた僧…


「空海さん…が?」


「空海?」


空海は銀を追って幽玄町にやって来たのだろう。


…会って話さなければ。

銀は良い妖だということを。