主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

自室で浴衣に着替えると、じわじわと息吹も緊張してきて団扇で顔を扇いだ。


…別に初夜というわけでもないのだが、主さまと夫婦の約束を交わしてから一夜を共にするのははじめてのこと。


「…主さまも緊張してるかな」


鏡台の前で髪紐を外して櫛で髪を梳き、入念にどこもおかしくないか確かめるとそっと襖を開けて中を窺った。

赤子がばたばたと脚を動かしているのが見えて、主さまの細く長い人差し指をちゅうちゅうと吸っている赤子と、少し笑みを浮かべてされるがままになっている主さまに未来の理想的な夫の姿を見た息吹は襖を閉めて中へと入った。


「お、お待たせしました」


「……畏まるな。早くこっちに来い」


強引な時とそうでない時の差が激しい主さまから命令されて隣にすとんと座ると、主さまは隣の息吹に目を遣ることができず、赤子を構い続けていた。


「主さま?どうしてこっちを見ないの?」


「…別になんでもない」


「なんでもなくないよ。こっちに来いって言ったのは主さまなのにこっちを見ないなんておかしいよ。いいもん」


ころんと横になって主さまに背を向けていると、しばらくしてから衣擦れの音がして主さまも横になったのがわかった。


そして怖ず怖ずと伸びた手は息吹の身体に回り、引き寄せられて背中越しに主さまの体温を感じた。


「…寝るのか?」


「…寝れるわけないよ。…主さまこそ寝れるの?私が一緒に寝てても平気なの?」


問うと今度はしばらく沈黙が続き、寝返りを打って主さまと向い合せになると、主さまの口がへの字になっているのがうっすらと見えた。


「…寝れるわけないだろう。食い物が懐に転がり込んでいるというのに俺は手が出せない。齧る程度ならいいか?晴明には言うな」


「え…?主、さ…っ」


主さまの手がゆっくりと浴衣の襟元をはだけさせて左肩をむき出しにさせると顔を寄せていき…齧られた。

痛い、というほどでもなかったが、齧られたという事実に息吹は全身身体が熱くなり、両手で口を覆って声を封じた。



「や、だ、主さ…」


「俺の痕をつけた。これはしばらく消えない。これを見る度に俺を思い出せ。痕が消えた頃にまたつける。1年間…身体から消えないようにしてやる」



…その後は夢中で唇を重ねた。

今はそれが限界。

それが精一杯。