主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

恐らく後で主さまや山姫にこっぴどく怒られるのだろうが…

それでも空海とこうしている空間が好きで、氷菓子を食べ終わった後も2人で河原を歩いたりたわいのない話をして過ごした。


「こっちに戻ってきたのはとても大切な用なんじゃないの?」


「探し物だ。恐らくここに潜伏しているんだと思うが…まるで気配のない奴で苦労している」


「…妖を…捜してるの?」


息吹の声が小さくなって表情が曇ったので、空海は脚を止めて顎に手をやり、ううむと唸った。


「それだけではない。呼び戻されたというのもあるんだが……そなたを困らせてしまったようだな」


「ここの妖はみんな私の友達なの。だから…悪い妖なんて…」


「そなたに隠れて非道なことをする妖も居る。その妖はあちらでひどい悪戯をやらかしていた奴で国を乱した。こちらへ逃げ込んだと聞いて捜しているのだが…見つからなければそれはそれでいいとしようか」


すると息吹がふわりと笑い、腕の中の赤子に目を落とした。


「良かった…。ほんとはね、主さまにお坊様と…空海さんと会うことを止められてたの。でも主さまに見つかったらきっと大変なことになるから、その時は逃げてね」


「わかった。しかしそなたは…不思議な雰囲気を持った女子だな」


「え?」


「顔が赤いぞ?ちょっと失礼」


空海が手を伸ばし、息吹の額に触れた。

すると一瞬ぴりぴりとして痛かったがすぐに痛みは消え、額に触れている空海の掌から不思議な波動が伝わってきた。


「……そなたは…」


「え?え?空海さん…?」


「…また会いに来てもよいか?主さまには秘密で」


「うん…見つからなければ…いいと思うよ」


「ではまた会いに来る。達者で」


幽玄橋の前には不動の赤鬼と青鬼が直立していたが、空海はその2匹の間を難なくするりと横切り、息吹が呆然としていると2匹が声をかけてきた。


「息吹じゃないか。こんな時間にうろついていたら危ないぞ。いや、危なくはないか。とにかく屋敷に戻れ」


「う、うん。赤、青、今日もご苦労様」


そして足早に屋敷に戻って縁側に座りながら額に触れ、首を傾げた。


「なんだったんだろ?空海さんか…優しい人だったね」


満天の夜空を見上げた。