寝かしておくばかりなのも可哀そうだと思った息吹は陽が暮れて涼しくなると、赤子を抱っこして庭を散策していた。
「早く親御が見つかるといいね。寂しくなっちゃうけど…やっぱり本当の母御たちの傍で暮らすのがいいと思うから」
だけど自分は幸せだ。
晴明と山姫…それに雪男や主さまに育てられて、ここまで生きてこれたのだから。
「きゃぅっ」
「どしたの?楽しい?高い高いしようか?」
「その子はそなたの子なのか?」
「きゃ…っ」
塀の向こうから若い男の声がして背を向けて赤子を庇うと、男がふっとわらう気配がした。
「私は敵ではない。少々探し物をしているだけなのだが…ふむ…面白いものを見つけた」
「え…?」
「ここは百鬼夜行の主…通称“主さま”と言われる男の屋敷で間違いないな?」
「………」
無言を貫くと、塀で姿の見えない男が向こうから笠を持ち上げて見せた。
「あ…さっきのお坊様…?」
「そうだ。立場上は敵だが、危害を加えるつもりはない。こっちに来て話さないか?まだ氷菓子屋がやっていたから買ってやるぞ」
気さくな僧に気が緩んだ息吹は山姫に見つからないように玄関の方へと移動して屋敷から出ると、待っていた背の高い僧を見上げた。
「あなたは…誰?」
「俺か。俺は空海という。しばらく国を留守にしていたが、訳あって戻ってきた」
「空海…さん?有名なお坊様なの?」
「さあ、無名ではないと思うが。行こう」
錫杖を鳴らし、不思議な安心感に包まれた息吹は空海を疑うことなく後をついていき、氷菓子屋に着くと赤子に話しかけた。
「食べさせてあげたいけど身体が冷えるといけないし我慢してね」
「で、人が何故主さまの屋敷に居るんだ?人嫌いだと聞いていたが…」
「好きな方じゃないと思うけど、でも人をもう食べたりしないって言ってたし…主さまはいい妖なの。百鬼のみんなもいい妖なの。だから空海さん…退治したりしないでね」
先手を打つと空海が苦笑しながら笠を脱ぎ、その素顔が現れた。
…僧にしては綺麗な顔立ちで、緩やかに下がった目元がその気性を物語っている。
思わずぽうっとなると、空海は運ばれてきた氷菓子を口に入れ、頭を押さえた。
「冷たいな」
「うん、冷たいね」
…不思議な空間だった。
「早く親御が見つかるといいね。寂しくなっちゃうけど…やっぱり本当の母御たちの傍で暮らすのがいいと思うから」
だけど自分は幸せだ。
晴明と山姫…それに雪男や主さまに育てられて、ここまで生きてこれたのだから。
「きゃぅっ」
「どしたの?楽しい?高い高いしようか?」
「その子はそなたの子なのか?」
「きゃ…っ」
塀の向こうから若い男の声がして背を向けて赤子を庇うと、男がふっとわらう気配がした。
「私は敵ではない。少々探し物をしているだけなのだが…ふむ…面白いものを見つけた」
「え…?」
「ここは百鬼夜行の主…通称“主さま”と言われる男の屋敷で間違いないな?」
「………」
無言を貫くと、塀で姿の見えない男が向こうから笠を持ち上げて見せた。
「あ…さっきのお坊様…?」
「そうだ。立場上は敵だが、危害を加えるつもりはない。こっちに来て話さないか?まだ氷菓子屋がやっていたから買ってやるぞ」
気さくな僧に気が緩んだ息吹は山姫に見つからないように玄関の方へと移動して屋敷から出ると、待っていた背の高い僧を見上げた。
「あなたは…誰?」
「俺か。俺は空海という。しばらく国を留守にしていたが、訳あって戻ってきた」
「空海…さん?有名なお坊様なの?」
「さあ、無名ではないと思うが。行こう」
錫杖を鳴らし、不思議な安心感に包まれた息吹は空海を疑うことなく後をついていき、氷菓子屋に着くと赤子に話しかけた。
「食べさせてあげたいけど身体が冷えるといけないし我慢してね」
「で、人が何故主さまの屋敷に居るんだ?人嫌いだと聞いていたが…」
「好きな方じゃないと思うけど、でも人をもう食べたりしないって言ってたし…主さまはいい妖なの。百鬼のみんなもいい妖なの。だから空海さん…退治したりしないでね」
先手を打つと空海が苦笑しながら笠を脱ぎ、その素顔が現れた。
…僧にしては綺麗な顔立ちで、緩やかに下がった目元がその気性を物語っている。
思わずぽうっとなると、空海は運ばれてきた氷菓子を口に入れ、頭を押さえた。
「冷たいな」
「うん、冷たいね」
…不思議な空間だった。

