主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

そして夕暮れになり、百鬼が集結し始めた時…それまで大人しかった赤子がぐずりはじめた。

どんなにあやしても泣き止まず、帰り支度をしていた息吹は困り果て、乳も飲んでくれずに悲鳴のような声で鳴き続ける赤子を抱くと、主さまに訴えた。


「主さま…どうしよう…」


「…俺は百鬼夜行に出て行かなければならないが…」


2人でうんうんと頭を悩ましていると、頭上で旋回する白い鳥を見つけ、その鳥…晴明の式神が息吹の肩に留まり、紙に戻った。


「父様からだ…どうしたんだろ」


広げてみると、その内容に息吹の表情がみるみる明るくなり、主さまが横から文を覗き込むと、一瞬小さく笑んだ。


『今宵は屋敷を留守にするので十六夜の屋敷で世話になるように』


主さまの屋敷に泊まるのは久々で、まだ泣いている赤子のぷにぷにの頬を軽く突くとまだ言葉もわからないはずなのにそれを教えてやった。


「今日はここに泊まっていこうね。主さま、お世話になります」


「…………今日は早く帰ってくる」


「わあ、ほんと?嬉しい」


――主さまとしても息吹が屋敷へ泊まっていくのならなるべく傍に居たい。

それに“泊まる”と聴いた途端赤子がぴたりと泣き止み、息吹の人差し指をちゅうちゅうと吸っている様は可愛らしく、赤子の時の息吹を思い出した。


「山姫、後を頼んだぞ」


「あいよ。お気をつけて」


「俺は見回りしてくる。坊主が屋敷の回りうろついてたら凍らせてやる」


主さまの命はすでに百鬼に下されていたらしく、普段はがやがやとしている百鬼たちは少しだけぴりっとしていて、だが息吹が手を振ると、一様にでれっとなった。


「行ってらっしゃい!」


「…ここは安全だと思うが、一応気を付けろ。行って来る」


赤子の手を取って振る息吹に少しだけ笑いかけると、主さまと百鬼が空を駆けて行った。


「お泊り…久しぶりで嬉しい。母様、お世話になります」


「早くここに住めるようになるといいんだけどねえ」


主さまと両想いになったことをまだ山姫に伝えていないので、しらを切ることに罪悪感を感じたが…息吹は曖昧に頷くと、楽しそうに声を上げる赤子を見つめた。


主さまと暮らす毎日は、どんなだろうか?

それを想像するだけで、身体がふわふわした。