主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

まるで我が子のように感じていたが…この子はいずれ離れて行ってしまう。

この幽玄町では人は生きにくい。

元々平安町の生まれなのだから、この赤子の親御は今も後悔に苛まれて日々を過ごしているはずなのだ。

だからきっと…生きていて、親御を捜していることを知れば…戻って来てくれるだろう。


「…ぅ、ひっく…」


――自分の出生を忘れたことはない。

親に捨てられ、捜しもされず、今まで生きてきた。

主さまが気まぐれを起こさなければ、1年と生きていることはできなかっただろう。


晴明と山姫が親代わりになってくれたが…本当の親は、今も平安町で生きているはずなのだ。


「私が…私が絶対捜してあげるからね。もうすぐだから…すぐ捜してあげるから…」


嗚咽が止まらず手で口を押えて必死に声が上がらないようにしていると、大きな手が膝に触れてきた。

息吹は無言でその手を握り、ぽたぽたと落ちる涙がその手の上に落ちて弾け…主さまが身体を起こし、無言で泣く息吹を抱きしめた。


「…何故泣いている」


「……なんでもないよ」


「なんでもなくない。…お前は感情移入しすぎだ。お前とこの赤子は違う。一緒にして憐れむな」


「だって…私も…会いたいよ…!」


…とうとう本音が出て、胸に顔を押し付ける息吹の背中を撫でてやりながら、主さまは唇を噛み締めた。


捜してやれなくはない。

だが今まで…息吹を捜しもせず、会いにも来なかったのだから、今更名乗り出てくることはないだろう。


平安町でも息吹の存在は広く知られている。

晴明に養女として育てられた美しい娘が帝に求婚されたがそれを断り、今も平安町と幽玄町を毎日行き来している“鬼姫”が居る、と言われていることを主さまも知っていた。

息吹も幽玄橋に捨てられ、今、皆からそう呼ばれていること…息吹の親は察しがついたはずだ。


“自分たちの娘だ”と。


「…晴明と山姫がお前の親御だ。お前はあいつらを親として認めないのか?」


「!違う!違うよ…でも…」


泣き声の息吹に過敏に反応した赤子が泣き出し、話を中断した2人は床でじたばた脚を動かしている赤子に目を遣り、それぞれ感慨にふけった。