主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

赤子を片時も離さない息吹は風呂に入る時も寝る時も常に一緒だった。

晴明と銀はそれを咎めず見守るのみだったが…

“執着”とも言える可愛がりように、息吹が胸の奥に隠している心情を慮った。


「銀よ、本当にあの赤子は橋で拾ったんだろうな?」


「ああそうだ。俺が幽玄橋へ行った時はすでに赤鬼と青鬼の腕に抱かれていた。橋の下から泣き声がするからといってあれを見つけたらしい」


2人で盃を交わしながら息吹の部屋の方に目を遣ると、互いにため息をつき、小さく首を振った。


「息吹が赤子を離さぬし、赤子も息吹が離れるとすぐに泣く。このままでは嫁に行く前に子持ちになってしまうぞ。早急に似顔絵を描くとしよう」


「お前が描くのか?」


「ふふふ、私は万能故。まず十六夜がいい顔をせぬだろう。息吹を赤子に奪われたような気分になって今頃へそを曲げているはず」


銀が尻尾を振りながら腰を上げて息吹の部屋の方へ歩き出したので、晴明はちくりと銀をけん制しながら庭を鑑賞した。


「何もせぬが良いぞ。私を怒らせたいのならば話は別だが」


「ひいては十六夜を怒らせてしまうのか。それはそれで面白い」


妹の葛の葉に面影が似ている息吹をどうこうしようとは思ってはいなかったが、そうやって晴明をからかって渋い表情を引き出すと満足し、こっそり息吹の部屋を覗いた。


「息吹?」


「あ、銀さん…。うとうとしちゃった…」


主さまに襁褓の替え方も教えてもらい、ちょうど寝かしつけたところらしく、息吹が傍に居ると全く泣くことのない赤子の小指を握った銀は息吹に笑いかけた。


「性別は違うが、晴明を生んだ時の葛の葉のようだな。十六夜の妻になったならばすぐに子ができるに違いない。あいつはむっつり助平だからな」


「うん、知ってる」


2人で主さまをけなし合いながら笑い合い、もう片方の手で息吹の指を握って離さない赤子に銀も瞳を細めた。


「俺は人を食ったりなどしないが、多数の妖は人を食う。百鬼は十六夜の命によりこの子を食うことはないが、他は別だ。お前共々注意して行動するんだぞ」


「はい。銀さんも一緒に寝る?」


息吹の警戒心の無さに、くすり。