主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

膝が濡れてしまった息吹は脚をばたつかせて可愛い声を上げている赤子と主さまと一緒に風呂場へ向かい、盥にぬるま湯を張ると主さまを振り仰いだ。


「ど、どうやって洗うの?あ、この子女の子だ!主さま見ちゃ駄目!」


「俺はそんな乳飲み子を見て興奮するような変態じゃない。貸せ」


ほとほと呆れながら主さまが腰を屈めて赤子の首を支えてやりながら首や胸にぬるま湯をかけてやると、赤子は気持ちよさそうな顔で息吹に手を伸ばし、息吹は小さな手を握り返した。


「そうやればいいの?じゃあ私もやるっ」


「綺麗になったら産着を着せてやれ。赤子の時にお前に着せていたやつがあるはずだから、山姫に用意させておく」


「ありがとう主さま」


主さまが風呂場から出て行くと、息吹は赤子を抱っこして四苦八苦しながら着物の帯を外し、濡れた着物も長襦袢も脱いで桧の浴槽に入り、大きな声を上げて喜ぶ赤子に瞳を細めた。



「可愛い…。こんな可愛い子を捨てるなんてひどいよ…。しかも幽玄橋に捨てるなんて…育てられないなら子供の居ない家を捜せばいいのに…」


「あぶーっ!あきゃーっ!」


「気持ちいいの?高い高いしてあげようか?高いたかーい!」


「そういえば襁褓の替え方を教えるのを忘れ…て……」


「…!?ぬ、主さま!?きゃーーっ!いやぁーーーーっ!」



――息吹に襁褓の替え方を教えていなかった主さまが断りもなく戸を開け、膝で立って高い高いをしてやっていた息吹の裸をばっちり…余すことなく見てしまい、息吹が悲鳴を上げて背を向けると、主さまもそうしたいのに身体が言うことを聞いてくれず、硬直してその場で凍り付いてしまった。


「い、息吹…っ、お、俺は…」


「あっち行って!…見た?見ちゃった!?」


「…見た。い、意外と育って…」


「きゃー!やめてやめて言わないで!主さまの馬鹿!早くあっち行って!」


「ちょっとちょっと、なんの騒ぎだい?…主さま!?何やってるんだい、早くこっちへ!」


「息吹っ、俺は、わ、わざとじゃ…」


山姫が言い訳を募ろうとする主さまの首根っこを掴んで退散すると、息吹は真っ赤な顔で繰り返した。


「…助平」


如何にも。