主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

ごにょごにょと小さな声で“ここに居ろ”と言った主さまは息吹をまともに見れずに背中を向けて横になった。


相変わらずに照れように嬉しさが込み上げた息吹は、櫛を手に主さまの真っ黒で長い髪を梳いてやりながら、どきどきしつつ細い背中に触れた。


「父様に怒られちゃう」


「何もしてない。だから怒られるはずがない」


「父様が怒る基準ってなんだろ?主さま知ってる?」


「…口づけ以上は駄目だと言っていた。………するか?」


背中に触れていた手をぐいっと引っ張られて倒れ込むと、布団の中に引きずり込まれ、覆い被さられた。

一昨日はこの光景を見られて1日罰を受けたので慌てて起き上がろうとすると、細い腕には見合わない強い力で両手を封じ込まれた。


「晴明はまだ来ない。来たらすぐにわかる。俺と…したいだろう?」


「ぬ、主さまが私としたいんでしょっ?主さまの助平っ」


「口づけも許さず1年も耐えろと言うのか?言っておくがそれは無理だ。観念して俺の好きなようにさせろ」


時々強引になる主さまの瞳の中に青白い炎が見え、目を閉じるとそれを合図に最初は軽く唇が重なり、その後は息もできないほどの激しい口づけに頭の芯がくらくらしてしまった。


「主、さま…、私がおばあちゃんになっても…してくれる?」


「…そんな話は聞きたくない。少し黙れ」


布団は足元に丸まってぐしゃぐしゃになり、主さまの心臓の上に手を置くと激しく脈打っているのがわかり、息吹は自分の胸に手をあてた。

そうこうしているうちに主さまの手が帯にかかり、まだ覚悟もなくお嫁に行くその日までは真っ新でいたい思いのある息吹は、主さまの耳を引っ張った。


「駄目っ。口づけだけって言ったでしょっ」


「…その着物の下がちゃんと育っているのか確認する。抵抗するな」


「駄目だったらっ。まだ育ってないもんっ!まだ見せないんだからっ」


散々抵抗に遭い、仕方なく身体を起こした主さまは自身の言葉と仕出かした行為に真っ赤になりながら頭まで布団を被り、狸寝入り。


「もういい。行け」


「…助平っ」


また助平呼ばわりされ、否定できずに布団の中で身悶えた。