主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

息吹が部屋へ乱入した時…主さまは上半身はだけ、袖に腕を通していたところだった。

…顔が綺麗なだけに白く意外とたくましい胸は艶めかしく、慌てて襖を閉めると背中を向けてぺたんと正座をした。


「い、いきなり脱がないでっ」


「お前が乱入してきたんだろうが」


衣擦れの音がした後ちらっと肩越しに盗み見すると、主さまはすでに着替えを終え、座椅子に座ってのほほんと茶を飲んでいた。


…1日ぶりの主さま。

少し疲れたような表情は憂いを帯び、俯き加減の主さまの隣にぴったりくっついて座ると、主さまは身じろぎをして身体を斜めにした。


「…なんだ」


「昨日は私と会えなくて寂しかった?寂しかったでしょ?」


「ば、馬鹿が!寂しくなんかない!少し離れろ!」


「やだ。主さまお手紙ありがとう。“是”って書いてくれて嬉しかった」


にこーっと笑っている息吹に何を言っても無駄だと悟った主さまは小さなため息をつき、ぷいっと顔を逸らすと机に湯呑を置いて籐で編まれた座椅子に背を預けた。


「…それしか思い浮かばなかった。お前こそ“助平”とはなんだ。失礼な奴だな」


「間違ってないもん。主さまこそがりがりなんてひどいよ、1年間沢山食べてぷくぷくになるんだから!はい主さま、膝枕してあげる」


「!?な…、やめろ、離せっ!」


強引に主さまの手を引っ張って膝に倒れ込ませると、主さまの顔は一瞬にして赤くなり、かといってそれ以上反抗せず、何か言いたげに口をもごもごと動かしていた。

息吹は限りなく優しく愛しい気持ちになりながら主さまの頭を撫で、顔を寄せた。


「なあに?何か言いたそう」


「……お前は…1日俺に会えず寂しかったか?」


問われ、即座に頷き、誰にも聴かれていないか耳を澄ますと主さまの右手をぎゅっと握った。



「寂しかったよ。だから…主さまも同じ気持ちだったら嬉しいなって思ってたの」


「…そうか。………俺も同じだ」


「私と同じってこと?寂しかったってこと?」


「…そうだ」



主さまが指を絡めてきゅっと握り、息吹は嬉しさのあまり主さまの頭を胸に抱いて絶句させた。