主さまに育ててもらえたこと…
晴明に育ててもらえたこと…
幽玄橋に捨てられた瞬間に妖から食べられてしまう運命だったかもしれないのに…1年後、自分は嫁ぐのだ。
主さまの元へと。
『是』と書かれた文を大切そうに懐にしまうと、屋敷内の晴明の部屋へと戻り、ぴったり身体をくっつけて隣に座った。
「返事が来たのだろう?なんと書いてあった?」
「へへ、内緒です。…駄目?」
「いや、いいよ。あ奴が書きそうなことは大体わかる。それよりも来客が来たぞ。道長だな」
――求婚してきた道長の来訪は予期していたが、なんと断ればいいのかまだ考えていなかった息吹は途端に表情を曇らせて俯き、晴明の袖を握った。
「父様…私まだなんて断ればいいのかわからなくて…」
「では今日は言わなければいい。道長もその方が幸せだろうからな」
「はい。私お迎えしてきます」
息吹が再び部屋を後にすると、晴明は巻物を脇に置き、肩を鳴らしながら茶を飲み、天井を見上げた。
「そういえば銀が居らぬな。またよからぬことでも企んでいるのではあるまいな」
「銀とは何者だ?晴明、美味い酒を持って来てやったぞ」
息吹に出迎えられてうきうきな道長が姿を現わすと、腰に下げていた徳利を手渡し、なるたけ自然に息吹の隣に腰を下ろした。
「い、息吹にはこれを。『源氏の物語』の続きだ」
「わっ、道長様ありがとうございます!」
まだ主さまとはほとんど読み進めていなかったのだが、嬉しそうに巻物を預かると、道長の頬がみるみる赤くなり、晴明の顔がみるみるにやけた。
「銀とは私に縁のある者だ。朝廷に悪さはさせぬ故心配するな」
「朝廷は未だ帝の落胤探しに皆追われている。面倒事だけは起こすなよ」
「大変ですね、ご苦労様です」
息吹が盃を手渡し、大きな徳利を傾けると、道長は男気のある笑顔を浮かべながらこれまたなるたけ自然に息吹の頭に大きな手を乗せた。
「しかし大きく…そして、う、美しくなったものだ。なあ晴明」
「そうだな、いつ嫁に出してもおかしくはないな」
どきっとする台詞を吐き、2人をどぎまぎとさせた。
晴明に育ててもらえたこと…
幽玄橋に捨てられた瞬間に妖から食べられてしまう運命だったかもしれないのに…1年後、自分は嫁ぐのだ。
主さまの元へと。
『是』と書かれた文を大切そうに懐にしまうと、屋敷内の晴明の部屋へと戻り、ぴったり身体をくっつけて隣に座った。
「返事が来たのだろう?なんと書いてあった?」
「へへ、内緒です。…駄目?」
「いや、いいよ。あ奴が書きそうなことは大体わかる。それよりも来客が来たぞ。道長だな」
――求婚してきた道長の来訪は予期していたが、なんと断ればいいのかまだ考えていなかった息吹は途端に表情を曇らせて俯き、晴明の袖を握った。
「父様…私まだなんて断ればいいのかわからなくて…」
「では今日は言わなければいい。道長もその方が幸せだろうからな」
「はい。私お迎えしてきます」
息吹が再び部屋を後にすると、晴明は巻物を脇に置き、肩を鳴らしながら茶を飲み、天井を見上げた。
「そういえば銀が居らぬな。またよからぬことでも企んでいるのではあるまいな」
「銀とは何者だ?晴明、美味い酒を持って来てやったぞ」
息吹に出迎えられてうきうきな道長が姿を現わすと、腰に下げていた徳利を手渡し、なるたけ自然に息吹の隣に腰を下ろした。
「い、息吹にはこれを。『源氏の物語』の続きだ」
「わっ、道長様ありがとうございます!」
まだ主さまとはほとんど読み進めていなかったのだが、嬉しそうに巻物を預かると、道長の頬がみるみる赤くなり、晴明の顔がみるみるにやけた。
「銀とは私に縁のある者だ。朝廷に悪さはさせぬ故心配するな」
「朝廷は未だ帝の落胤探しに皆追われている。面倒事だけは起こすなよ」
「大変ですね、ご苦労様です」
息吹が盃を手渡し、大きな徳利を傾けると、道長は男気のある笑顔を浮かべながらこれまたなるたけ自然に息吹の頭に大きな手を乗せた。
「しかし大きく…そして、う、美しくなったものだ。なあ晴明」
「そうだな、いつ嫁に出してもおかしくはないな」
どきっとする台詞を吐き、2人をどぎまぎとさせた。

