主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

会えない時が余計に想いを募らせる――

にやけ笑いの止まらない主さまは何度も息吹の“大好き”を読み返し、皺にならないように引き出しにしまってはまた取り出して読み返し…を繰り返していた。


「…会いたい」


息吹が赤子の頃からこの手で育て、一時期は手放したが…また戻って来てくれた。

そして、こんな自分を好きだと言ってくれたこと…

今思うと互いの想いが叶ったことがとてつもない奇跡に感じられて、たった1日会えないというだけで主さまの想いは高まり、むくりと起き上がると筆を取った。


「どんな返事をすれば…」


照れ屋でへたれで満足に本音を語ることのできない主さまは1時間ほど考えた結果、また一言だけ綴ると文車妖妃を呼び出し、にまにまと笑う文車妖妃を叱った。


「何故笑っている?不愉快だぞ」


「笑う位いいじゃないですか。さあ文を」


「早く行け」


ぱしんと障子を閉めるとまた寝転び、文を読み返す主さまは…幸せに満ち溢れていた。


――その頃息吹は晴明が使う天地盤の準備をしたり戸棚から巻物を取り出したりして忙しくしていたのだが、庭から文車妖妃が呼びかけてきた。


「息吹、主さまから文を預かって来たよ。私はその屋敷の中へ入れないからここまで取りに来ておくれ」


「!お返事が来た!父様、ちょっと行ってきますっ」


晴明の屋敷は元々妖が入ってこれないようになっているが、主さまと契約を交わした百鬼は入ってくるように術式を代えていたのだが、屋敷内への侵入は主さましか許していない。


息吹は裸足のまま庭に駆け降りると文車妖妃と一緒に縁側に座り、文を手渡してくれた優しくて白い手を撫で、背を向けてそっと開いた。



『是』



――一言だけ書かれたその言葉の意味…


“俺もだ”という意味なのだろう。


きゅんとした息吹は感激で瞳が潤み、脚をばたばたさせると文車妖妃から笑われた。


「一体どんなやりとりをしてるんだい?」


「なっ、内緒。文車妖妃さん、ありがとう。朝なのにごめんね」


「いいんだよ。あんたは私たちの娘みたいなもんだから、何かあったらまた声をかけておくれ」


感激で言葉に詰まった。