親子水入らずで朝餉を摂り、片づけを終えた後、息吹は仕事に取り掛かった晴明のすぐ傍で畳に和紙を広げ、筆を取った。
「こらこら、ここで書くつもりかい?私に見られてもいいのか?」
「だって父様は私のこと全部知ってるし、全部知っててもらいたいからいいでしょ?だから見られても平気」
にっこり笑顔を見せた息吹に笑い返し、肩を竦めると肘掛けに頬杖をつき、和紙を覗き込んだ。
『主さまへ
助平』
…書かれてある一文に噴き出すと、息吹は頬を膨れさせて荒々しく硯に筆を置いた。
「だって!本当のことだもん!だって…沢山触ってくるし…」
「惚れた女を触りたいと思うのは至極当然のことだが。ふむ、あいつ…私に隠れてそなたにそのようなことをしていたか。父様に詳しく話してごらん」
「はい。あのねっ」
そして洗いざらい晴明に話し、晴明は怒るでもなく、逆に笑いを堪えるのに必死になっていた。
――息吹を主さまの嫁にやることは決まっているのだから、複雑な思いであってもそれを帳消しにするつもりはない。
ましてや息吹が嫁に行くことを望んでいるのだから、盛大な輿入りをさせてやらなければ。
最初は巻物に目を落としながら息吹の話を聴いていたのだが、とうとう巻物は畳を転げてしまい、息吹は晴明の膝の上に居て、『助平』とだけ書いた和紙を畳んでいた。
「早く着くように私が送ってあげよう。さてあいつ、どのような返事をするのだろうか」
人差し指と中指で五芒星を描くと何もしていないのに鳥の形に折れた後、真っ白な本物の鳥のようになり、翼を広げると泣き声を何度か上げて庭に飛び出て行った。
「主さま寝てるんじゃないかな」
「では賭けるか?私が負けたら十六夜の屋敷へ行ってもいい。だが私が勝ったら私の仕事の手伝いをしてもらおう。ちなみにすぐに返事が来る方に賭けるよ」
「はい。じゃあ私は主さまが寝てる方に賭けます。負けないもんっ」
そして子供の時のように晴明のすぐ傍で式神と貝合わせで遊び始めた息吹に瞳を細めつつ転げた巻物を巻くと仕事を再開した。
そして主さまは…
「…なんだこれは。息吹の奴…」
絶句していた。
「こらこら、ここで書くつもりかい?私に見られてもいいのか?」
「だって父様は私のこと全部知ってるし、全部知っててもらいたいからいいでしょ?だから見られても平気」
にっこり笑顔を見せた息吹に笑い返し、肩を竦めると肘掛けに頬杖をつき、和紙を覗き込んだ。
『主さまへ
助平』
…書かれてある一文に噴き出すと、息吹は頬を膨れさせて荒々しく硯に筆を置いた。
「だって!本当のことだもん!だって…沢山触ってくるし…」
「惚れた女を触りたいと思うのは至極当然のことだが。ふむ、あいつ…私に隠れてそなたにそのようなことをしていたか。父様に詳しく話してごらん」
「はい。あのねっ」
そして洗いざらい晴明に話し、晴明は怒るでもなく、逆に笑いを堪えるのに必死になっていた。
――息吹を主さまの嫁にやることは決まっているのだから、複雑な思いであってもそれを帳消しにするつもりはない。
ましてや息吹が嫁に行くことを望んでいるのだから、盛大な輿入りをさせてやらなければ。
最初は巻物に目を落としながら息吹の話を聴いていたのだが、とうとう巻物は畳を転げてしまい、息吹は晴明の膝の上に居て、『助平』とだけ書いた和紙を畳んでいた。
「早く着くように私が送ってあげよう。さてあいつ、どのような返事をするのだろうか」
人差し指と中指で五芒星を描くと何もしていないのに鳥の形に折れた後、真っ白な本物の鳥のようになり、翼を広げると泣き声を何度か上げて庭に飛び出て行った。
「主さま寝てるんじゃないかな」
「では賭けるか?私が負けたら十六夜の屋敷へ行ってもいい。だが私が勝ったら私の仕事の手伝いをしてもらおう。ちなみにすぐに返事が来る方に賭けるよ」
「はい。じゃあ私は主さまが寝てる方に賭けます。負けないもんっ」
そして子供の時のように晴明のすぐ傍で式神と貝合わせで遊び始めた息吹に瞳を細めつつ転げた巻物を巻くと仕事を再開した。
そして主さまは…
「…なんだこれは。息吹の奴…」
絶句していた。

