主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

問題は…晴明だ。

なんでも見透かしてしまう晴明を躱す術を主さまも息吹も持っていない。

それに息吹は育ててくれた晴明に隠し事をするのはいやだった。


「父様には…言っちゃ駄目?」


「…隠していてもすぐにばれる。晴明にだけは話しておく」


「うんっ」


――主さまはそっぽを向いたまま、息吹の膝の上に乗っていた手を握った。

すると一瞬びくっと引きつったが、小さく握り返してくれたので、横目でちらっと息吹の顔を盗み見ると…気恥ずかしげに俯き、照れていた。


…息吹を嫁に。

それが叶い、正直主さまもこの時どうしたらいいか気が動転していた。

もっともっと触りたくて、握る手に力をこめると、晴明の呪いのような言葉が脳裏をよぎった。


“嫁に出すまでは接吻以外のことを禁ずる”


つまり…輿入れの日までは、口づけ以上のことをしてはならないのだ。

そんなことが…可能だろうか?


今もうすでに息吹を襲ってしまいそうになっているのに――



「あ、あの…主さま?どうしたの?」


「…なんでもない」


「あの…主さま…」


「なんだ」


「……あの…私…今すっごく幸せ。主さまのお嫁さんになれることがすっごく嬉しい。早く大人になれるように頑張るから…浮気しないでね?」



――胸から“きゅん”という妙な音がして、息吹をもっともっと可愛く見えるようになり、辛抱できなくなった主さまは肩を抱き寄せて、首筋にちょんと唇を押し付けた。


「!!な、主さま、ゃだっ」


「何がいやだ。俺に嫁入りすればこれ以上のことをもっと…」


「やだやだっ、言わないで!まだ心の準備が…」


「だからまだ先の話だと言っている。今は…これで我慢する」


唇で頬をかすめるように撫でると、息吹がその意味を悟って顔をゆっくりと上げた。


互いに初恋で、初恋の相手と想いを叶えることができた喜び――


唇が重なり、息吹を膝に抱くと、やわらかくて甘い息吹の唇に溺れ、息吹は主さまにとろけさせられ、何度も唇が重なり合う。


「主さま…好き…」


「…俺も好きだ」


これは夢ではない。

夢では、ない。