主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

何を言われているのかしばらくの間…理解することができなかった。


主さまは時々唇を求めてきて、時々意地悪をしてくる。

これもきっと何かの冷やかしなのだと思い込み、なるべく自分が傷つかないような選択をしなければと思うが…


信じたい。

今こうして主さまに抱きしめられて、“好きだ”と言ってくれたその言葉を――


「…返事をしろ」


「え…、へ、返事って…」


「…俺の告白を聴いてなかったのか?…お前が欲しい、と言ってるんだ」


「…!」


――突然頭の中が鮮明になり、主さまの腕に抱かれながら震える瞳で主さまを見上げた。


元々…冗談など言わない男だ。

よくよく観察してみると、主さまの顔も緊張で強張り、自分だけががちがちになっているわけではないのだとわかると、少しだけ肩の力が抜けた。



「“お前が欲しい”って…どういう…意味?」


「………お前が考えていることそのものだ」


「それって…夫婦にって…こと?」


「その前に聴かせろ。お前は俺のことが好きか?ちゃんとはっきり言え」



主さまがどうして自分の気持ちを知っていたのか気にはなったが、主さまが“好きだ”と言ってくれたことがものすごく嬉しくて、感動して、それ以上何も考えられなくなって…


じっと黙っていると、また唇を求めてきて…

主さまの唇を両手で覆うと、耳元でこそりと囁いた。



「好き。ずっと好きだったの。主さまが“十六夜さん”として傍に居てくれた時から…ううん、ずっと前から。大好き」


「…息吹…」


「ねえ、これって夢なの?夢じゃないよね…?」


「夢じゃない。…夢と思いたくない」



ゆっくりと覆い被さられ、押し倒され、近距離からひたと見つめ合い…同じ想いを抱きながら唇を重ね合った。


人と妖――

禁断の恋で、本当はあってはならない恋だったが、いまこの瞬間…そのことは忘れていたかった。



「主さまの…お嫁さんになってもいいの…?」


「…嫁に来い。お前しか考えられない」



感極まった息吹が抱き着き、主さまが身体を抱き寄せる。


想いが叶った瞬間だった。