主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

盗み聞きをするつもりではなかったのだが…結果そうなってしまった雪男は、息吹と主さまのちぐはぐな会話に唇を噛み締めていた。


…2人は想い合っている。

だがそれを素直に口にできず、遠回りばかりして…


「…“嫁さんに欲しい”って先に言ったのは俺なのに…」


とてもいい雰囲気で、見逃すことができなかった雪男がわざとどすどすと足音を立てて2人を驚かせ、言葉もかけず草履を履くと庭に下りた。


「ゆ、雪ちゃん？」


「…」


「どうしたの？雪ちゃん？」


「…うっせ」


怒りを抑えることができず、嫉妬にまみれた口調になってしまい、後戻りができずに背を向けてずんずん歩き出すと、息吹が追ってきた。


「雪ちゃん、どうして怒ってるの？ねえ、なんか言ってよ」


「ついてくんな」


「でも怒ってるでしょ？私に怒ってるの？雪ちゃんったら！」


息を切らしながら袖を掴まれ、それでも雪男はその手を振り払うと、息吹が傷ついた表情になり、雪男は唇を震わせた。


「…主さまが好きなのに、俺から“嫁さんになって”とか言われて困っただろ？」


「え…、で、でも…嬉しかったよ？本当だよ雪ちゃん…」


「もし息吹が主さまの嫁さんになったら…俺…なんでもねえ。早くさっさとくっつけよ。見てていらいらすんだよ」


「雪ちゃん…」


――主さまと同じように、小さな頃から一緒に遊んだり、文字を教えてくれた雪男から冷たくされた息吹はあっという間に泣きそうな顔になった。


だが息吹を慰める役目は自分ではない。

振り向いてもくれないのに、その役目を担うのは…滑稽だ。


「主さまのお嫁さんなんて無理だよ…。だって私、なんとも思われてないんだから…」


「お前…それ本気で言ってんのか？ふざけんなよ」


無表情の雪男から乱暴な言葉で罵られ、今度は本当に泣いてしまい、それでもまた袖を掴んできた息吹は何度も首を振って腕に抱き着いてきた。


「やだ雪ちゃん…怒らないで、ごめんなさい、私が怒らせたんだよね…？雪ちゃん…！」


「…」


雪男は、泣きじゃくる息吹の顔をずっと見つめていた。