主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

主さまは夜から明け方にかけて百鬼夜行に出てしまうので、会えるのは日中だけ。

だがその日中は主さまは眠っていることが多く、その間幽玄町に遊びに来ても主さまと話せる時間は少ない。

その間息吹は屋敷中を掃除して回ったり、じゃれついてくる猫又や鵺といった動物系の妖の毛を櫛で梳かしてやったり、山姫や雪男といった日中でも活動していられる強い妖たちと談笑して日々を過ごす。


そして気付いた。

楽しい声を上げていると…主さまが起きて来るということに。


「銀さんの耳、やわらかそうだね。触ってもいい?」


「なに?いやらしい子だな、恥ずかしいじゃないか」


「え?ど、どうして?耳も尻尾もやわらかそうだなって…」


「触ってもいいが、その代り俺も同じ場所を触る。さあ好きなだけ触れ」


「え、えっと…」


銀の耳は真っ白でふかふかな感じがして、実は会った時から触ってみたくて仕方のなかった息吹は、耳なら…と考えて手を伸ばすと…


「そいつに触れるな」


「あ…主さまだ」


すらりと襖が開き、明らかに不機嫌顔の主さまがぬっと出て来ると、晴明が扇子で顔を仰ぎながらほくそ笑んだ。


その笑い方が気に入らなかった主さまは銀の頭上で止まった息吹の手を掴んで膝の上に戻すと、煙管を噛みながら2人の間に座った。


「あんまり寝てないでしょ?寝なくっていいの?」


「そいつが俺の屋敷に居る間は安心できない。早く出て行け」


「いや、しばらくはこの国に留まる。晴明、お前の屋敷に泊めてくれ」


「ああいいぞ。色々な話を聞かせてくれ」


――銀が晴明の屋敷に逗留すると聞いてぎょっとしたのはもちろん主さまで、ぎょっとしている間に大反論したのは雪男だった。


「駄目だ!息吹に絶対何かする気だろ!」


「お前らと一緒にするな。どうだ息吹、違う国の話を聞きたいだろう?」


晴明にそっくりの銀に笑いかけられるとなんだかほっこりした気分になった息吹が思いきり首を縦に振り、辟易した主さまが晴明を味方につけようと視線を送ったが…晴明は敢えてそれを無視した。


「楽しみですね、父様!」


主さま、いらいら。