主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

さっきは“道長よりも好き”と言ったくせに…

息吹の落ち着きようが癪に障った主さまは、むかむかしながら平静を装い、床に寝転がると片肘をついて頭を支えるとぽんぽんと隣を叩いた。


「来い」


「え…う、うん。一緒に寝るだけだよね?」


「…他に何かあるのか?」


「べ、別に!」


意地っ張りな2人が意地を張り合いながらひとつの床に身を横たえると、互いの香りがふわりと鼻腔をくすぐり、沈黙が訪れた。

銀が現れる直前…唇を重ね合って熱に溺れそうになったことはもちろん忘れていない。

忘れてはいないが…主さまとこうしているとなんだか落ち着く息吹はさらに身を寄せてぴったりと主さまに張り付くと、腕枕をねだった。


「主さま、腕枕」


「…甘えるな」


「いいでしょ、はいっ」


息吹に無理矢理腕を伸ばさせられて頭を乗っけてきた息吹に呆れながらも、瞳を閉じて本気で寝る態勢に入った息吹の長い睫毛に見惚れながら…怖ず怖ずと手を伸ばし、息吹の頬に触れた。


「!な、なに…?」


「“道長よりも好き”とはどういう意味だ。“晴明よりも好き”なら納得できる」


瞳を開けると間近にある主さまの綺麗な唇が動き、切れ長の瞳に見つめられて心臓が跳ね上がった息吹が黙り込むと、主さまは息吹の髪紐を外してさらさらの黒髪を指で掬うと口元に持っていき、香りを楽しんだ。


「ち、父様が1番だもん…」


「お前の好きな男が1番じゃないのか?…俺は何番目だ?」


「順番なんてつけたくないもん。でも…主さまは上の方だよ」


また曖昧なことを口にすると、主さまは息吹の顎を強引に取って上向かせた。


「道長と比べられるのは納得がいかん。あんな男と俺を比べるな」


――主さまがふてくされてしまうと、ちょっと慌てた息吹は主さまの頬を軽く引っ張ると顔を隠すようにして胸に顔を押し付けた。


「だから…主さまは上の方だってば。じゃあ、私は?何番目?」


「……寝る」


「ひどい!私は教えたのに」


「あんなの教えたうちに入るか」


息吹をぎゅっと抱きしめ、息吹もぎゅっと抱き着いた。