主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

晴明にとっても銀の登場は寝耳に水で、明らかに血縁者だとわかる似た者同士の2人が縁側に腰掛けると、山姫が茶を持ってきた。


「…そいつは客人じゃない。茶なんか出すな」


「おお山姫、また美しくなった。そろそろ嫁に行く予定はないのか?」


「山姫は私の下へ嫁ぐ故、余計な手出しはせぬよう」


不機嫌顔の山姫から茶を受け取りながら晴明がさも当たり前のようにのたまうと、あっという間に顔色が変わった山姫が持っていた盆で思いきり晴明の左腕を叩いた。


「恥ずかしがり屋め」


「ふ、ふざけるんじゃないよ!あんたみたいな若造、願い下げだね!」


晴明が山姫を狙っていることを知り、銀がまた驚いて馴れ馴れしく主さまの肩を抱くと、主さまは沈黙したまま天叢雲の鞘で思いきりその手を叩き落とした。


「相変わらずつれない奴だな。…で?息吹が逃げたから本音が言えるだろう?もう噛みついたのか?」


「ふむ、その話は私もじっくり聞きたいところだ。どうなんだ十六夜」


2人から質問攻めに遭った主さまは、すくっと立ち上がると興味津々の顔をしている銀を見下ろしながら天叢雲を突きつけた。


「あれは俺が拾い、俺が育てた。俺のものに手を出すとどうなるか今一度知りたいか?」


「何を言う十六夜。息吹はそなたが拾ったかもしれぬが、あそこまで美しく教養ある子に育て上げたのは私だぞ。そこだけは曲げぬからな」


「…寝る。どこかへ行け」


結局口喧嘩では銀と晴明には歯が立たない主さまが自室に逃げ込むと…何故かそこには床に座った息吹が居て、慌てて襖を閉めると盗み聞きをされないように結界を張った。


「な、何をしている…」


「銀…さんが変なこと言うから…玄関から回ってここに逃げてたの。駄目?」


見上げてきた息吹の顔はまだ少し赤く、銀たちが来るまでの間に息吹にしたことを思い出してしまった主さまはがりがりと長い髪をかき上げながら息をついた。


「俺は寝るぞ」


「じゃあ私も一緒に寝る」


「…はあ?」


――少なくとも気持ちを伝えることができた息吹は心が軽くなったおかげでいつも通りになり、逆に主さまは緊張の度合いが半端なく、動揺。


それも、いつも通り。