訳が分からず目を白黒させる息吹の手を引っ張って起き上がらせた主さまは不愉快そうに眉をひそめると襖を開け放った。
「主さま?どうしたんですか?」
あまりの剣幕に庭の手入れをしていた山姫が驚いていると、天叢雲を手にした主さまがじっと玄関の方を見つめ、息吹が主さまの部屋から飛び出てきた。
「主さま…?」
「招いてもいない客が来た。…何をしに帰ってきた」
主さまにはその侵入者が誰だからわかっているようで、その剣幕に息吹が少し怯えてしまい、騒ぎを聞きつけた雪男が駆けつけるとその背に隠れて身を縮ませた。
「どうしたんだよ、何が…」
その時、突然蝉の鳴き声が止んだ。
空気がぴんと張りつめ、耳鳴りがすると、縁側の方の庭に居た主さまたちの前に…その者は現れた。
「久しいな、十六夜」
「…銀(しろがね)、やっぱりお前か」
――頭の上にはふさふさの真っ白な耳・・・
真っ白な髪…
真っ白な着物を着て、お尻からはふさふさの真っ白な尻尾が生えていて、その顔は…
「父様にそっくり…」
「…こいつは妖狐。葛の葉の兄の銀だ。この国から出て行ったんじゃなかったのか」
「戻って来ない、とは言わなかったはずだが。面白いものを見つけたから戻ってきたまでのこと。…晴明の屋敷でな」
「…」
視線の先には息吹が居て、警戒心を露わにした雪男が両腕を広げて息吹を庇うと、銀は秀麗な美貌に笑みを浮かべた。
「お前と幽玄町の覇権を争って戦ったのはもう過去のこと。俺にはもう権力には興味がない。風に吹かれるままに気ままに旅をしている」
「だったら今すぐまた風に吹かれて飛び立て。晴明の屋敷で何を見つけたか知らんが、お前にやるものなど何ひとつない」
「相変わらず強気だな。…息吹と言ったな、あの気難し屋が手塩にかけた娘だとか。どれ、こっちにおいで」
晴明の母の兄と聴いた息吹がひょこっと顔だけ出すと、銀は金色の瞳を細めて手を差し伸べた。
「息吹、近付くな」
「でも…」
悪い人物とは思えない。
だが主さまの表情は硬い。
息吹は言いつけを守り、その場から動かなかった。
「主さま?どうしたんですか?」
あまりの剣幕に庭の手入れをしていた山姫が驚いていると、天叢雲を手にした主さまがじっと玄関の方を見つめ、息吹が主さまの部屋から飛び出てきた。
「主さま…?」
「招いてもいない客が来た。…何をしに帰ってきた」
主さまにはその侵入者が誰だからわかっているようで、その剣幕に息吹が少し怯えてしまい、騒ぎを聞きつけた雪男が駆けつけるとその背に隠れて身を縮ませた。
「どうしたんだよ、何が…」
その時、突然蝉の鳴き声が止んだ。
空気がぴんと張りつめ、耳鳴りがすると、縁側の方の庭に居た主さまたちの前に…その者は現れた。
「久しいな、十六夜」
「…銀(しろがね)、やっぱりお前か」
――頭の上にはふさふさの真っ白な耳・・・
真っ白な髪…
真っ白な着物を着て、お尻からはふさふさの真っ白な尻尾が生えていて、その顔は…
「父様にそっくり…」
「…こいつは妖狐。葛の葉の兄の銀だ。この国から出て行ったんじゃなかったのか」
「戻って来ない、とは言わなかったはずだが。面白いものを見つけたから戻ってきたまでのこと。…晴明の屋敷でな」
「…」
視線の先には息吹が居て、警戒心を露わにした雪男が両腕を広げて息吹を庇うと、銀は秀麗な美貌に笑みを浮かべた。
「お前と幽玄町の覇権を争って戦ったのはもう過去のこと。俺にはもう権力には興味がない。風に吹かれるままに気ままに旅をしている」
「だったら今すぐまた風に吹かれて飛び立て。晴明の屋敷で何を見つけたか知らんが、お前にやるものなど何ひとつない」
「相変わらず強気だな。…息吹と言ったな、あの気難し屋が手塩にかけた娘だとか。どれ、こっちにおいで」
晴明の母の兄と聴いた息吹がひょこっと顔だけ出すと、銀は金色の瞳を細めて手を差し伸べた。
「息吹、近付くな」
「でも…」
悪い人物とは思えない。
だが主さまの表情は硬い。
息吹は言いつけを守り、その場から動かなかった。

