主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

晴明が面白そうに見守る中、息吹の部屋で道長と主さまは睨み合っていた。


「幽玄町の主が何故平安町をのうのうと歩いている?息吹は幽玄町から逃げてきたのだぞ。追ってきたのか?」


「…一旦去ったのは確かだがまた自らの意志で戻ってきた。お前こそ下心全開で息吹に近づくな。…殺すぞ」


腰を下ろして低い声で最後の一言を吐くと、道長が一瞬ぞくっと背筋を震わせ、主さまの前にどすんと音を立てて座った。


「息吹は人だ。人は人と繋がり、夫婦になる。そなたは晴明と同じく息吹の父代わりと聴いた。…まさか下心があるのはお前の方では?」


――主さまが不遜な態度でにやりと笑い、緊張感のない欠伸をして道長を馬鹿にした。



「元々あれは拾った時から俺のものだった。俺があれに何をしようともお前には関係ない。いいか、あれに手を出せば俺が即座にお前の命を絶ってやる。末代まで祟ってやるからな」


「…っ!」



妖らしく呪いを口にするとさすがに道長の顔色が変わり、ようやくそこで晴明が介入してきた。


「まあまあ2人とも。そなたたちが私の愛娘を愛していることはよくわかった。だが残念ながらそなたたちの意志は関係ない。息吹が好いた男と夫婦にさせる。それが妖であっても人であっても私は構わぬ」


「ふざけるな。あれは俺のものだと何度言わせれば…」


「父様っ、とりあえず熱いお茶をお持ちしました」


それまですらすらと饒舌だった主さまが息吹が現れた途端黙り込み、晴明が噴き出した。


「?父様?はい、これ主さまの分。道長様もどうぞ。お話弾んでる?」


険悪な空気を全く感じていない息吹が笑顔で主さまに問うと、また無口全開になった主さまが鼻を慣らし、手をしっしと払って息吹を追い遣る仕草をした。


「男同士で話をしている。早くあっちへ行け」


「ふうん?ねえ、主さまも食べていくでしょ?みんなで食べよ」


「…わかった」


まるでさっきと態度が違う主さま。

道長もつい噴き出してしまい、射殺すような瞳で主さまから睨まれると慌てて表情を引き締めた。


そして息吹が去ると、牽制再開。


息吹を幸せにできるのは自分だ。

2人共そう思っていた。