平安町の晴明の屋敷で暮らし始めた時から書物に囲まれて過ごしてきた息吹は、晴明に似て本の虫になっていた。
掃除が終わると晴明に勧められた本を読み、感想を書き、それを晴明に見せる。
晴明が忙しい中でもそうやって距離を縮め、すぐに打ち解けることができたのは一重に雪男が主さまに内緒で字を教えてくれたおかげでもある。
「おや、また何か読んでいたのかい。どれどれ」
やけに屋敷中が静かだったので晴明が息吹の部屋を訪れ、息吹を中心に書物が散乱している光景を見て瞳を細めた。
「父様が勧めてくれた物語が溜まっていたから読んでいたんです。……え?もうこんな時間っ?大変っ」
すでに正午を過ぎ、昼餉の準備をしようと腰を上げた時、外で牛車の止まる音がした。
「お客様ですか?」
「ん、客というか…息吹、出迎えてやりなさい」
「?はい」
草履を履いて庭に下りると、扉を開けて入ってきたのは道長だった。
やけに緊張した面持ちで分厚い巻物を手にしていたので、晴明ときっと難しい話でもあるのだと察した息吹が晴明を振り返ると…面白い玩具を見つけた子供のような顔をしていた。
「もう来たのか道長」
「!い、息吹!晴明!きょ、今日は大事な用があって来た!」
晴明に引き取られた時から足しげく屋敷に通ってくれて遊んでくれた道長は息吹にとっては兄のようなもの。
そっと袖を握ってにこーっと笑うと、道長の顔が一気に赤くなり、晴明が…噴き出した。
「わ、笑うな!」
「まあとにかく中へ入れ。息吹が雨に濡れて風邪を引いてしまう」
元々道長は豪胆な男で、息吹が風邪を引いてしまうと聞いて咄嗟に息吹の肩を抱いて濡れないように頭の上を手で覆うと縁側から中へと入った。
「ありがとうございます道長様」
「う、うむ」
優しくされて嬉しくなった息吹がお礼を言うとますます顔が赤くなり、晴明は必死に笑いを堪えながら息吹の髪についていた露を指で弾いた。
「で、何をしに来た?私に用か?それとも息吹に?」
「きょ、今日は息吹に用があって来た!」
「え、私にですか?」
「これを!」
道長が差し出したのは…
掃除が終わると晴明に勧められた本を読み、感想を書き、それを晴明に見せる。
晴明が忙しい中でもそうやって距離を縮め、すぐに打ち解けることができたのは一重に雪男が主さまに内緒で字を教えてくれたおかげでもある。
「おや、また何か読んでいたのかい。どれどれ」
やけに屋敷中が静かだったので晴明が息吹の部屋を訪れ、息吹を中心に書物が散乱している光景を見て瞳を細めた。
「父様が勧めてくれた物語が溜まっていたから読んでいたんです。……え?もうこんな時間っ?大変っ」
すでに正午を過ぎ、昼餉の準備をしようと腰を上げた時、外で牛車の止まる音がした。
「お客様ですか?」
「ん、客というか…息吹、出迎えてやりなさい」
「?はい」
草履を履いて庭に下りると、扉を開けて入ってきたのは道長だった。
やけに緊張した面持ちで分厚い巻物を手にしていたので、晴明ときっと難しい話でもあるのだと察した息吹が晴明を振り返ると…面白い玩具を見つけた子供のような顔をしていた。
「もう来たのか道長」
「!い、息吹!晴明!きょ、今日は大事な用があって来た!」
晴明に引き取られた時から足しげく屋敷に通ってくれて遊んでくれた道長は息吹にとっては兄のようなもの。
そっと袖を握ってにこーっと笑うと、道長の顔が一気に赤くなり、晴明が…噴き出した。
「わ、笑うな!」
「まあとにかく中へ入れ。息吹が雨に濡れて風邪を引いてしまう」
元々道長は豪胆な男で、息吹が風邪を引いてしまうと聞いて咄嗟に息吹の肩を抱いて濡れないように頭の上を手で覆うと縁側から中へと入った。
「ありがとうございます道長様」
「う、うむ」
優しくされて嬉しくなった息吹がお礼を言うとますます顔が赤くなり、晴明は必死に笑いを堪えながら息吹の髪についていた露を指で弾いた。
「で、何をしに来た?私に用か?それとも息吹に?」
「きょ、今日は息吹に用があって来た!」
「え、私にですか?」
「これを!」
道長が差し出したのは…

