主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

ここ最近晴明の口から道長の名が挙がっていなかったので油断していたが…


以前高千穂で息吹は“道長様に嫁ぐ”と口にしたことがある。

…まさか、その道長が好いた男だとでも?


「…」


「黙り込むのは別にいいがそなたの屋敷でやってくれ。そろそろ息吹が起きてくる故そんな顔でいられては心配させてしまう」


明らかに不機嫌全開になった主さまの表情を注意すると、いつもより低い声で問うた。


「道長が…息吹の…」


「私からは言えぬ。そなたがもたもたしている間に道長が息吹に直接言い寄るのも時間の問題だぞ。まあ人間の中では道長が1番のお気に入り故私は息吹の婿が道長でもいいと思っているが」


「…帰る」


相変わらず無口全開の主さまが何も言わずに庭に下りて去って行くと、入れ違いのように息吹が目を擦りながら起きてきた。


「晴明様?主さまの匂いがする…」


「ああおはよう。十六夜?十六夜など来てはいないぞ。それよりも今日は屋敷に居なさい。面白いものを見れるやもしれぬぞ」


「面白いもの?主さまたちと一緒に居るよりも面白いものですか?」


にこにこしながら隣に座った息吹の長い黒髪を撫でながら晴明は瞳を細め、頷いた。


「同じ位面白いものだと私は思っているが。それとも主さまに会いたいか?」


それまで欠伸をしていた息吹の顔がぽっと赤くなった。

…主さまを好いている気持ちに変わりはないのだろうが、2人共様々な壁が立ちはだかり、それをどうやって乗り越えようかと四苦八苦している最中なのだろう。

焦らせるのは得策ではないが、晴明はしとしとと降り始めた雨を見上げながら笑った。


「会いたいに決まっている。詮無きことを聴いてしまった」


「…でも主さまは私に会いたいかな。邪魔なんじゃ…」


「もし邪魔だったらあ奴の場合はっきりとそう言う。息吹…そなたは例外なのだよ。十六夜が本気でそなたを怒ったり邪魔に思ったりすることはない。父様が保障してあげるよ」


「えへ、良かった。じゃあ今日は屋敷に居ますね。あ!朝餉作ってきます」


息吹が去り、晴明がにやり。


「さて、どうなることやら」


吉と出るか、凶と出るか。