主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

晴明が息吹を抱きかかえ、息吹の部屋へ連れて行ってそっと床に寝かしつけると、道長と2人で唇に人差し指をあてながらそっと部屋を出た。


「ではまた遊びに来る。その…晴明…俺は息吹をその…よ、嫁に欲しいと考えている!そなたも真剣に考えてくれ!」


「ふむ、わかった。私はわかったが、息吹にもそなたの想いがわかるような行動を取ってくれ。例えば贈り物とか、恋文とか」


「こここ、恋文?!わ、わかった…」


「そなたは確か紫式部と友人関係にあるだろう?息吹は私と似て書物を読むのが好きだ。紫式部が宮中で披露している『源氏の物語』はきっと息吹を舞い上がらせるぞ」


「おおあの物語か!あれはすごいぞ!よしきた!その作戦で行こう!」


意気揚々と帰って行った道長を見送り、式神の童女が運んできた茶を啜っていると、何者かの強い視線を感じた。

すぐに印を結ぶと横に真一文字に薙ぎ、屋敷全体の結界を強めた。


「何者だ。ここが安部晴明の屋敷と知っての侵入か」


「…」


…敵意ではない。

だが主の許しもなくいとも簡単に侵入を許してしまい、晴明の矜持を傷つけ、竹林の方に去って行く気配を追いかけて風の如く走り抜けた。


その行き着く先は…


「…母上の墓…」


息吹が毎日綺麗にして花を添えてくれている母の墓――

そこで気配は消え、晴明は墓の前で腰を下ろすと墓標を撫でた。


「母上…また息吹の身に何か起こるとでも?あの娘は私の朝廷への呪縛から解き放ってくれたのに…。私はあの娘を守ってやりたい」


朝方になるまで晴明はそうやって母の墓に話しかけ続けた。


――そして早朝、百鬼夜行から屋敷へ帰る道中、主さまは晴明の屋敷に寄り、息吹の部屋に寄ろうとして邪魔者から声をかけられた。


「夜這いならぬ朝這いか?十六夜、底が知れるぞ」


「…晴明か。息吹はまだ寝ているのか?」


「ああ。まあちょっとこっちに来い」


晴明に誘われて仕方なく縁側に腰を下ろすと、晴明は昨晩の道長とのやりとりを切り出した。



「道長が正式に息吹を嫁にしたいと言ってきた。して…そなたはどうするのだ?」


「…!」



けしかける。