主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

「主さまに選んで、って言ったくせに結局自分で選んじゃった」


幽玄橋から赤鬼と青鬼が手を振ってきたので息吹が大きく振り返すと、主さまは衆目があるために難しい顔を作りながら息吹の手から巾着を奪った。


「俺の部屋に置いておけば晴明にはばれないだろう。部屋に隠しておいてやる。いつ渡すんだ?」


「父様のお誕生日ってもうすぐでしょ?それまで隠してもらっていい?でも髪紐は私の部屋ねっ」


相変わらず帯を掴んできて離さない息吹をちらちら盗み見ながらようやく人気の少ない幽玄町の奥まで行き着くと、腰を屈めて息吹の耳元でぼそっと囁いた。


「俺の誕生日ももうすぐだぞ」


「えっ?主さまって誕生日あるのっ?」


「俺をなんだと思ってる」


心底驚いたという表情の息吹に逆に驚いた主さまは、呆れたため息をつきながら屋敷の門を潜った。


「ねえっ、いつなの?いつ!?どうしてもっと早く言ってくれなかったの!?」


「晴明の誕生日は知っていて俺の誕生日はわからないのか」


また晴明に嫉妬して鼻を鳴らすと、しつこくまとわりついていた息吹が背中に飛び乗った。


「お、おいっ!」


「教えてくれるまで離れないから!母様ただいまーっ!」


子泣き爺のように主さまの背中に無理矢理おんぶしてもらった状態で帰ってきた息吹を見て、縁側で饅頭を食べていた雪男のてからぽろりと饅頭が落ちた。


「な、何してんだよ主さま!」


「…この状況は俺が悪いのか?」


背中にはやわらかな感触。

もう随分長い間女を食っていないし、飢えているといえば飢えている。


その喉の渇きのようなものはきっと…息吹でなければ解消できないだろう。


息吹が好いている男にふられれば、今すぐにでも想いを告げて…一緒になりたい。


だがこんなに美しくなった息吹をふる男など居るのだろうか?


「主さまったら誕生日いつなのっ!?教えて!」


「寝る。しばらく声をかけるな」


「え?お、おい…」


息吹を背中に背負ったまま自室へと入ってしまったので雪男はそれ以上追及することができず、部屋の前を行ったり来たりすることしかできない。

皆、焦れている。