主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

「た、高いなあ…」


思ったより筆は値が張り、1番高くて使いやすそうな筆は息吹が貯めていたお小遣いの2倍はする値段だ。


「それにすればいいじゃないか」


「だって足りないんだもん、これは無理だよ」


「じゃあ俺が買ってやる」


主さまが懐に手を入れると、息吹は髪を振り乱して首を振り、その手を掴んで懐から引っ張り出した。


「私が買わなきゃ意味がないのっ」


息吹がまごつき、気が長い方ではない主さまは店内をうろうろする息吹から離れると冷や汗をかいている店主に声をかけた。


「おい」


「は、はいっ」


気付かれないように息吹に背を向けて懐に手を入れると、息吹が欲しがっていた筆を何本も買えるほどの金を手に掴ませて声を潜めた。


「値段が間違っていたと言ってあれの持ち金で買えるほどの値札に貼り替えろ。わかったか」


「しょしょしょ、承知いたしました!」


禿頭の店主が脂汗を手拭いでふき取りながらぐっと安くなった値札を筆が飾られている棚に飾り、息吹に声をかけた。


「お嬢さん、値段を貼り間違えてしまっていたよ。これなら買えるんじゃないかい?」


「えっ、本当?わあ、これなら買えるよっ。主さまの氷菓子も買えちゃうっ」


「こ、氷菓子なんか要るか!」


「おじさん、これを1つください。贈り物なの」


「じゃあ綺麗な紙に包んであげようね」


息吹の顔が輝き、金を払うと待ちきれない様子でそわそわしながらもしれっとしている主さまの帯をまたぎゅっと握った。


「父様喜んでくれるかなあ?」


「あいつは筆をよく使うから喜ぶだろう。早く隠しておかないと気付かれるぞ」


「うんっ。主さまお買い物に付き合ってくれてありがとう!後で氷菓子一緒に食べようね」


…逢引はとても楽しくて、ただそれを表情に出すことができない。

思えば華月も父親も祖父も無口でぶっきらぼうで無表情だったのだから遺伝とも言えるのだろうが、息吹ともっと仲睦じくしたいというのが本音だ。


だから今度は帯を握られるままにして店を出ると氷菓子屋を顎で指した。


「奢れ」


分かりにくい愛情。