主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

雪男に気付かれないように寝室に戻り、晴明は堂々と玄関から主さまの屋敷を訊ねて、出てきた雪男が笑顔で出迎えた。


「お、久しぶりじゃん!


「10年来なかっただけだ。…主さまが面白いものを育ててるそうだね。私に見せてもらえないだろうか」


あくまで息吹と会うのはこれがはじめて、という態を装って問うと、雪男は渋面を造って首を振る。


「主さまの寝室で眠ってる。あそこには主さまの許可がないと入れない」


「…だあれ?」


――目を擦りながらそっと息吹は襖を開けた。


晴明と会うのはこれがはじめてだ、という態を装って。


「まだ寝てなくていいのか?」


この雪男とも…

そして“母しゃま”と慕う山姫とも別れなければならない。


…食べられたくない。

食べてしまうために育てられていたなんて…許せない。


「雪ちゃん、この人だあれ?」


「こいつは安部晴明って言って…俺と同じ半妖なんだ。それに唯一主さまと対等に話せる奴なんだ。強いんだぜ、半妖なのに」


「雪男…半妖であることを卑下してはいけない。私たちは両方共の立場で在り、互いを行き交いできる」


「…ん、ごめん。とにかく息吹、いい奴だから沢山遊んでもらえよ」


「うんっ」


晴明に向かって両腕を伸ばして抱っこをせがむと、雪男はそれで安心したのか違う部屋へと行ってしまった。


「息吹…明日ここを発つよ。主さまと会えるのは明日の夜…百鬼夜行に主さまが出た時だ。わかったね?」


「…」


「私が匿ってあげるからね。絶対に主さまから食べられないようにしてあげるよ」


「…うん…晴明しゃま、ありがとう」


主さまと同じ立場、と聞いて“様”付で敬った息吹の頭を撫でて、後は注意を言い聞かせた。


「いつもと同じように振舞いなさい。夜になれば幽玄橋を渡って平安町にある私の屋敷まで連れて行く。強力な結界を張るからね、主さまと言えど無傷では入って来れないよ」


「…はい…」


どんどん気落ちしていく息吹をぎゅっと抱きしめた晴明。


…晴明には目論見があった。


それを知るのは、まだまだ先の話――