幽玄町は騒然となった。
皆は息吹の存在には慣れている。
いつも鵺か猫又を従えて赤鬼と青鬼の元へ遊びに行き、幽玄橋のたもとでわいわい楽しそうにやっている姿は恒例となっている。
だが…
息吹の隣を歩いているあの見違えるような美しい男は…
「あ、あれは…主さまじゃないか?!」
「はじめて見たぞ…!あの方が…」
ざわざわと声が上がったが浮かれている息吹の耳には届かず、この幽玄町の主である主さまと思われる男は不機嫌全開の顔をしていてとても買い物という雰囲気ではない。
「主さま、あっちあっち!筆が沢山売ってるお店があるんだよっ」
「暑い…もう帰りたい」
「もうちょっと我慢して!後で氷菓子買ってあげるから!」
子供に言い聞かせるような口調で主さまをあやすとほんのり頬が赤くなり、衆目に気が付いた主さまが遠巻きで見つめていた皆をぎらりと睨んだ。
「や、やっぱり主さまなのか…」
「目を見張るような色男ね…」
女たちもきゃあきゃあと声を上げ、そういうのには敏感な息吹は主さまを離すまいと帯を掴んだ。
「こら、やめろ」
「ねえ、今気が付いたんだけどみんなが主さまを見てるよ。やっぱり主さまは目立つんだね」
「…俺は昼間出歩くことはないから珍しいんだろう。それより着いたぞ」
妖が支配している幽玄町は、幽玄町へ行ったことのない平安町の人間から言わせると想像で“汚い”とよく言われるが、実際はそうではない。
碁盤状ではないが建物は古くなれば毎回建て直しているし、平安町で売られている最新のものも売られている。
街並みは清潔にされ、だからこそ主さまが商売や住人たちに口出しをすることはほとんどないのだ。
「晴明様がこの前主さまのことを誉めてたよ。“十六夜はできる奴だ”って。私もそう思うなあ」
「…誉めたって何も出ないからな」
「本音だもん。ね、主さま入ろ」
中へ入ると様々な動物の毛を使った筆が棚に飾られていて、店主が転びそうな勢いで飛び出て来た。
「こ、これはこれはっ」
「息吹、早く選べ」
「うんっ」
品定めに取り掛かった。
皆は息吹の存在には慣れている。
いつも鵺か猫又を従えて赤鬼と青鬼の元へ遊びに行き、幽玄橋のたもとでわいわい楽しそうにやっている姿は恒例となっている。
だが…
息吹の隣を歩いているあの見違えるような美しい男は…
「あ、あれは…主さまじゃないか?!」
「はじめて見たぞ…!あの方が…」
ざわざわと声が上がったが浮かれている息吹の耳には届かず、この幽玄町の主である主さまと思われる男は不機嫌全開の顔をしていてとても買い物という雰囲気ではない。
「主さま、あっちあっち!筆が沢山売ってるお店があるんだよっ」
「暑い…もう帰りたい」
「もうちょっと我慢して!後で氷菓子買ってあげるから!」
子供に言い聞かせるような口調で主さまをあやすとほんのり頬が赤くなり、衆目に気が付いた主さまが遠巻きで見つめていた皆をぎらりと睨んだ。
「や、やっぱり主さまなのか…」
「目を見張るような色男ね…」
女たちもきゃあきゃあと声を上げ、そういうのには敏感な息吹は主さまを離すまいと帯を掴んだ。
「こら、やめろ」
「ねえ、今気が付いたんだけどみんなが主さまを見てるよ。やっぱり主さまは目立つんだね」
「…俺は昼間出歩くことはないから珍しいんだろう。それより着いたぞ」
妖が支配している幽玄町は、幽玄町へ行ったことのない平安町の人間から言わせると想像で“汚い”とよく言われるが、実際はそうではない。
碁盤状ではないが建物は古くなれば毎回建て直しているし、平安町で売られている最新のものも売られている。
街並みは清潔にされ、だからこそ主さまが商売や住人たちに口出しをすることはほとんどないのだ。
「晴明様がこの前主さまのことを誉めてたよ。“十六夜はできる奴だ”って。私もそう思うなあ」
「…誉めたって何も出ないからな」
「本音だもん。ね、主さま入ろ」
中へ入ると様々な動物の毛を使った筆が棚に飾られていて、店主が転びそうな勢いで飛び出て来た。
「こ、これはこれはっ」
「息吹、早く選べ」
「うんっ」
品定めに取り掛かった。

