主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

2本ずつ綺麗に揃えられた髪紐。

息吹が毎日自分の髪を梳き、お揃いの髪紐を結んで嬉しそうにしている様子を見るだけで幸せを感じた。

こういう風に大切にしているのを見ると余計に愛しさが込み上げて来てどうしようもなくなる。

ましてやこんな想いになったのははじめてだし、これが色恋だと気付いたのもつい最近のこと。


だが気付いてしまえば手に入れたくなる。

好いている男が誰だかは未だにわかっていないが…その男よりも息吹を愛している自信はある。


「誰なんだ…息吹…」


よもぎ色の髪紐を手に取ろうとした時――


「主さまー来ましたー」


「!」


さっき別れたばかりだと言うのにもう息吹が来てしまい、息吹の部屋で寝転んでいた主さまは慌てて引き出しを閉めて起き上がると床に飛び込んで頭から掛け布団を被った。


「ねえ母様、主さまは?」


「寝てるんじゃないかねえ。起こすんならあんたが起こしておいでよ、母様はいやだからね」


「どうして?」


「寝ぼけた主さまに殺されかかったことがあるんだよ。だから絶対いやだからね」


「…あいつ余計なことを…」


舌打ちをした時、いきなり襖が開く音がした。


…この部屋には怖がって誰も入って来ないのに息吹だけは例外だ。

例え寝ぼけていたとしても息吹に手をあげるなど絶対に有り得ないが、息を詰めて寝たふりをしていると…


「ねえ主さま、遊んで」


「…」


「眠たいの?どの位待ってたら起きるの?」


「……」


「じゃあ主さまが起きてくるまで暇だからお買い物に行ってこようかな」


「…買い物?」


布団から顔を出すと、髪を下ろしたままの息吹が笑いかけてきた。


「一緒行く?でも幽玄町の人たちには姿を見られたくないんでしょ?」


「…行ってやってもいい」


「ほんとっ?早く起きて起きてっ準備してっ!髪は私が結んであげるねっ」


自室に駆け込んで引き出しから藍色の髪紐を2本取り出すとそれを見せてきて櫛を手ににじり寄ってきた。


息吹との逢引。


…最高に緊張してきた。