主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

雪女に助言をされた通り、主さまはひとりで晴明の屋敷を訪れると許しも得ずに中へと入った。


息吹の部屋がどこにあるかも知っているので気配を完全に絶って襖を開けると…

相変わらず寝相の悪い息吹は布団を蹴って足元で丸くなっていて、苦笑が込み上げてきた。


「寝相が悪いぞ」


小さく声をかけて布団を身体にかけてやると、すやすやと眠っていた息吹が暑いのか浴衣の胸元をぐいっとはだけさせて、大混乱。


「!!」


「ん…あつ…」


横向きの息吹の胸元からは胸の谷間がちらりと見え、わなわなと手が震えながらも布団を引っ張ってそれを隠し、団扇を手に風を送ってやった。


…長い睫毛が美しい。

息吹が幼い頃に夢の中に出て来た成長した息吹の姿にだんだん似てきて、あんな風になるのかと思うと胸から鼓動が聴こえるほどに大きな音がして、主さまの顔を赤くさせた。


「俺が…息吹に…告白を?」


もし断られたら?

…いや、好きな男が居るのだから断られるに決まっている。


人と妖という垣根を超えるにはあまりに高く、あまりに険しい。

それでも息吹が手元から去るという想像はし難く、頬にかかる髪を払ってやると頬を指でなぞった。


「…離れていくな」


今まで恋だの愛だのよくわからなかったが、息吹が鬼八に連れ去られた時…今まで生きていて感じたことがないような想いに捉われたのは確かだ。


想い、想われるというのはどんな気持ちだろう?

それを息吹と共有したい。

…先に死ぬとわかっていても、それまではずっと一緒に居てほしい。


「……あれ…主さま…?」


じっと見つめていると息吹が目覚め、目を擦りながら膝に触れてきた。


「どうしてここに居るの…?まだ明け方だよ、眠たい…」


「まだ寝ていていい。ちょっと顔を見に来ただけだ」


「ふうん…。ねえ主さま、今日もお屋敷に遊びに行ってもいい?」


「…俺は寝るがそれでもいいなら」


強がりを言って腰を上げると、息吹が名残惜しそうに声をかけてきた。


「ご飯食べて行かないの?」


「俺が食いたいのは飯なんかじゃない」


「?」


息吹には、わかるまい。