柱の傷は徐々に上へ向かって行き、息吹は笑顔でそれをなぞっていたのだが…
腰を屈めなければいけないところでその傷が終わり、じっとその傷を見つめた。
「終わってる…」
「…お前が幽玄町から去っていく直前の傷がこれだ。そういえばそんなのもあったな」
「6年前かあ…。私、こんなに小さかったんだね」
「今でも小さい」
息吹が雑巾を置いて座ると、主さまも床の上に座ると団扇を扇いでさりげなく息吹に風を送ってやっていた。
「平安町の父様の屋敷に移った時、私…ここで暮らしたことを忘れたくてすごく頑張ったけど…いつも主さまや母様や雪ちゃんたちのことを思ってたよ。主さまは?私のこと…忘れちゃってた?」
――少し開いた襖から晴明たちが聞き耳を立てているのはわかっていた。
本音をなかなか口にすることのできない主さまが黙り込むと、息吹は主さまの隣に移動してにこにこしながら袖から巾着袋を出した。
「これならお話できる?」
「…ああ」
いつもの紙の上での会話。
はたから見るとままごとのように見えても、息吹と主さまが建前抜きにこの紙の上でなら素直になることができる。
なので晴明たちからは主さまと息吹の背中しか見えない状況を作ると、広げた紙の上に目を落とした。
「交代で質問ね。じゃあ私から。主さまは私のこと…忘れちゃってた?」
再度問われ、主さまが貝を指で押して『否』の上に置くと息吹の顔が綻んだ。
「嬉しい…」
「…息吹は幽玄町にもう住む気はないのですか。この屋敷で一緒に住む気は?」
「…え?」
予期せぬ質問だった。
この主さまの屋敷には一時的に避難していただけで、昔のようにまた一緒に主さまたちと幽玄町で暮らすことは有り得ないと思っていたのだが…
主さまからそう切り出され、息吹がまごつくと主さまが催促するように貝を突いた。
貝を『是』の上に置けば…主さまとまた暮らせるのか?
だけどそんな状況になり、主さまに告白してふられた時はまたここから出て行かなければならないのだ。
それは、つらい。
「息吹?」
息吹は動けなかった。
腰を屈めなければいけないところでその傷が終わり、じっとその傷を見つめた。
「終わってる…」
「…お前が幽玄町から去っていく直前の傷がこれだ。そういえばそんなのもあったな」
「6年前かあ…。私、こんなに小さかったんだね」
「今でも小さい」
息吹が雑巾を置いて座ると、主さまも床の上に座ると団扇を扇いでさりげなく息吹に風を送ってやっていた。
「平安町の父様の屋敷に移った時、私…ここで暮らしたことを忘れたくてすごく頑張ったけど…いつも主さまや母様や雪ちゃんたちのことを思ってたよ。主さまは?私のこと…忘れちゃってた?」
――少し開いた襖から晴明たちが聞き耳を立てているのはわかっていた。
本音をなかなか口にすることのできない主さまが黙り込むと、息吹は主さまの隣に移動してにこにこしながら袖から巾着袋を出した。
「これならお話できる?」
「…ああ」
いつもの紙の上での会話。
はたから見るとままごとのように見えても、息吹と主さまが建前抜きにこの紙の上でなら素直になることができる。
なので晴明たちからは主さまと息吹の背中しか見えない状況を作ると、広げた紙の上に目を落とした。
「交代で質問ね。じゃあ私から。主さまは私のこと…忘れちゃってた?」
再度問われ、主さまが貝を指で押して『否』の上に置くと息吹の顔が綻んだ。
「嬉しい…」
「…息吹は幽玄町にもう住む気はないのですか。この屋敷で一緒に住む気は?」
「…え?」
予期せぬ質問だった。
この主さまの屋敷には一時的に避難していただけで、昔のようにまた一緒に主さまたちと幽玄町で暮らすことは有り得ないと思っていたのだが…
主さまからそう切り出され、息吹がまごつくと主さまが催促するように貝を突いた。
貝を『是』の上に置けば…主さまとまた暮らせるのか?
だけどそんな状況になり、主さまに告白してふられた時はまたここから出て行かなければならないのだ。
それは、つらい。
「息吹?」
息吹は動けなかった。

